並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

Aブロック感想

 自分の実力棚上げ。
 感想というよりも叫び。
 ネタバレ満載の感想です。



A01 糸子教授の人生リセット研究所

 タイトルからして面白そうなお話ですね。
>名前は偽名で動機も嘘だ。
 人生リセット研究所に潜入する山口あやさん(仮)と序盤からぐっと掴まれる展開です。
 儲け話という理由だけで危険さえ顧みない登場人物像が浮かび上がってきます。


>何度も何度も同じ時点で人生をリセットして、同じ人生をグルグル回る。
 そう来たか! と思いました。
 1回500万円で、それ以上は取らない理由。
 何度でもリセットされる無限ループの世界はゾッとしますね。



A02 アフロディーテーの手

 てっきり古典ものかと思ったらSF。
 しかもAIの設定がガチガチで、世界観にどっぷりと浸かりました。


 幸せな夢を見たのに
>このコーヒーよりも苦いわずかな後悔とともに。
 という一文で、時間経過とともに失われたものがあると暗示させられていて効果的だなと思いました。
>『美姫、退屈してませんか?』
 繰り返される問い。
 幸せな夢。
 黒よりのグレーを踏み越えてしまう理由が切なかったです。
 何にでもおしまいはくるのですね。



A03 導かれた先は

>「推理」
 覆面作家企画にふさわしいエピソードを盛りこんできたな! と思いました。
 作者さんの「推理」の定義には脱帽です。
 まるでホームズがワトソンに聞かせるような淡々とした推理力。
 江戸川乱歩だからこの場合は、明智小五郎と小林少年でしょうか。
 カッコいいです。


 車窓にべったり張り付いている紹子ちゃんが生き生きとしていて、可愛いです。
 電車にはよく乗るんですが、車ばかり乗っている少女には景色がこんな風に見えるのですね。
 貴也との対比がいいですね。
 微笑ましい兄妹ですね。



A04 地面に手が生えていた

 こちら側に話しかけてくる文体が軽妙で親しみやすかったです。
 一文から度肝を抜かれました。
 手が生えているなんて、ずいぶんとシュールな風景ですよね。
 好奇心から思わず近づいて見てしまいます。


>スカートが捲れないようにして
 何でもないような一文ですが伏線だったのですね。
 最後のくだりで納得しました。


 発想が良い作品だなと思いました。



A05 現代人外住宅事情

 律子さんじゃないですが、朝から怖いですね。
>驚きすぎて悲鳴も出なかった。
 一人暮らしなのに、本当に恐ろしいですよね。
 それなのに親身になってくれない警察官。
 まるでよくあることだという感じで、藁にもすがりたい感情を逆撫でするには充分ですよね。
 それからも続く怪奇現象。
 逃げ出したくても逃げられない律子さんの前に現れたのは
>「あたし、座敷わらしよ」
 ビックリですよね。
 そして、最後の一文にさらなる恐怖が。
 ほのぼので解決するかと思ったら、そうは問屋が卸さないみたいです。



A06 魔女と秘密の88手

 過去の回想シーンは、やんちゃな男の子集団の中でいまいち馴染めていない僕だけど。
 時間軸が戻ったら、ドッキリするような若者に成長していましたね。
 まさか魔女の魔法の虜になっているとは。
 呪いといってもいいですね。
 弟子入りを志願して、それが88回目の失敗を迎えて、切り返した。
>「僕を、あなたの夫にしてください。僕は今日、十八になりました」
 このセリフは本当に効果的ですね。
 思わず胸キュンしました。
 にべもなく断られてしまいますが、魔女の方も満更ではないんでしょうか。
 しつこく僕に付きまとわれているのに、それに付き合っているんですから。



A07 最果ての巫女

>貴女のとこしえの微笑みだけを望んでいるはずなのに、ひととき言葉を交わすだけで傷付けてしまう
 ズムルードゥのこのセリフが甘露のごとき甘いです。


 よくもまあ、本格的ファンタジーをこの文字数で書ききったな、と思いました。
 二人のやり取りが親子のような、求婚者とそれを断る姫のような、曖昧なところがいいですね!
 もっと長編で二人の関係を読んでみたいと思いました。
 それぐらい作りこまれた世界観に酔いました。
 精緻な文体に、大仰な言い回し。
 本当に素敵です。



A08 巡り巡って

 ナツキが天使だ。
 厳しく躾けられているんだろうな、というのが序盤の昼食の準備から読み取れる。
 そんなさりげない描写で書かれて作者さんの筆力を分けてほしいと唸りました。


>「見る人の数だけいろんな風に評価されていくのが、創作の面白いところですよね」
 絵だけでなく小説にも通じることがある、と思いました。
 作者さんの作品へのスタンスを垣間見たような気がしました。


 『家族』というものを考えさせる内容でした。
 重たくなりがちなテーマですが、ユウから見たナツキの愛らしさによって、前向きに感じられるような作品に仕上がっていると思います。



A09 手を貸した話

 レジ打ちの仕事をする私が語る話。
 ちょっと不思議な夢を見るAさんとほのぼの交流系の作品かと思ったんですが。
 最後のくだりで「ちょっと待った!」というどんでん返しがありました。


 Aさんの話を聴く展開とか、違和感なくするすると読み進めることができました。
 それは私の話しぶりが柔らかく、かつ的確で、配慮された文体だからですね。
 無駄のない展開で、張り巡らされた伏線を丁寧に拾っていて、作者さんの才能が羨ましいです!



A10 ハンスと五本指の魔法

 善行には善行が返ってくるというお話ですね。
 たとえ、それが気まぐれだとしても。
 童話調の作品で、これからどんな困難がやってくるのだろうとワクワクしながら読み進めることができました。
 魔法の力で解決されていくのは小気味良いですね。
 お姫様の足に肉刺ができたのも、ハンスが靴屋さんであり、城から遠い田舎に住んでいるのも、伏線なんですね。
 物語はめでたしめでたしで幕を降して、ほっこりとした気分になりました。



A11 黄昏時にその店は開く

 手際よく作られていく料理は魔法みたいですよね。
 幼い頃、憧れたあたしの情景が美しかったです。
 軽い飯テロですね。
 あたしの作る料理は美味しそうです。


>喉から手が出るほどにな
 お題の消化かもしれませんが、あたしが欲しかった魔法の手と真逆な意味ですね。
 対照になっているところが良いと思いました。


 お店が続くようで良かったです。
 一瞬、ヒヤッとしましたが大団円ですね。
 あたしの料理が結果的に、救ったのですね。
 幼い頃にあこがれた魔法の手は、自分のものになって、他の人たちを笑顔にさせているんですね。