自分の実力棚上げ。
感想というよりも叫び。
ネタバレ満載の感想を書きました。
E01 銀の御手のサジタリウス
異端の子のサジタリウスが見事、狩人の験しを成しえるまで、文体に程よい緊張感が渡ります。
どうして異端なのか気になりながらスクロールするのがもどかしかったです。
しっかりとした世界観の中、どこまでも真っ直ぐなサジが魅力的です。
そんなサジから見たプロメの愛らしいこと。
>「サジ、やり遂げたんだね。信じてたよ」
全幅の信頼を置いているのが伝わってきます。
帰ってきて、サジとプロメのやりとりは何だかくすぐったいですね。
E02 五月の庭、蕾の君は目を閉じたまま
緑の手を持つ『こうちゃん』の本業は小説家なんですね。
ちょっと勿体ないですね。
ガーデナーになれば、それだけで一儲けできそうなのに。
斜に構えたところのある『僕』との会話は、自然体で素敵です。
>僕はどこに帰っていいの。
あきらの心境は切ないですね。
高校生にもなれば、行けるところなんてたくさんあるのに。
帰りたい場所は一つきりなんですよね。
そこに帰ってもいいのか、不安になる姿が哀れです。
E03 機械細工職人と機械義手
>その美しい作風から“歯車の奇跡”と呼ばれている
クリフォードさんの作品は想像を絶するほど素敵ですね。
ライザじゃなくても夢中になるのが分かります。
機械細工職人という設定も素晴らしいです。
すんなり世界観に入ることができました。
>彼の手は、冷たかった。
冒頭の一文が、ラストに活きますね。
機械義手を持つクリフォードさんとライザの関係は、本当に微妙で。
どちらも他人に伝えるのは勇気のいる過去を持っていて。
それ故に優しい関係を築けているんですね。
作品に漂う余韻に酔いました。
E04 飲み干す残滓
>未だに団欒を楽しむ私は幸せと同時に表現出来ない苦しみを密かに抱えていた。
気になる一文ですね。
咲希の中には、どんな鬱屈が抱えこまれているのでしょうか。
幸せを描いたような夕食の風景に、落としこまれた翳り。
違和感のように心に響きました。
最後はビックリな展開でした。
孝之の中ではずっと重荷のように胸にあったんでしょうね。
それをとうとう実行に移す日が来た。
それだけのことなんでしょうね。
運命に定められているかのようです。
許してしまう咲希の切なさに、二人の未来を思い描きました。
E05 キズアト
SFだー。
しかも恋愛が禁じられている世界観。
夢の中ですら、想うことを禁じられるというのはずいぶんと窮屈な世界ですね。
そこで、くりかえし見るシモン先生の夢。
本を通してほんわかと、どこか切なく続いていく作品かと思っていたら。
まさかのアクションシーン。
映画を見ているような場面で素敵でした。
>囁く言葉とともに、先生はわたしの制服のリボンをほどいた。
艶めいた表現に、ドキッとしてしまいました。
先生の言葉が気になりました。
反転しても文字が出ないので、当たり前ですが。
作者さん種明かししてくれないかなぁ、とあとがきに期待です!
E06 幕張でバーチャルアイドルミゾレと握手
沼にはまっていく人を見ました。
ささやかなきっかけですよね。
平穏な、でもどこか退屈な生活に差しこむ光。
一人で楽しんでいたんですが、それだけでは物足りなくなる。
ミゾレにどんどんハマっていく姿が楽しそうで良かったです。
初めてできた仲間がまさかの人物でしたね。
>毎日会っているはずなのに、やっと会えるような気持ちでこの日を待ち望んでいたのだ。
やっぱり自宅で眺めているのと、会場で会うのは違いますよね!
コンサートは自分ひとりだけのものじゃないですよね。
周囲の熱気に、浮かされれるところがありますよね。
今流行りのバーチャルアイドルを活かした作品で、近い将来実現しそうな感じがしました。
E07 楽園の手
>ほどよい弾力を持つ瑞々しい肌をした食べごろの手だ。
え?
食べるの!? とビックリしました。
だって『手』ですよ。
確かに不思議なところに生えていますが。
スモッグの中で暮らしていた僕は楽園に転がりこんだ。
一人になって、自由を満喫していますね。
僕の視点観る探検は、まさに冒険といって過言ではないですね。
とてもワクワクしました。
作者さんの描写力がすごくて、思いっきり楽しめました。
ラストシーンは考えさせられるような雰囲気でした。
楽園にこだわる理由が垣間見えて、手を食べ続けるのも代償行為なのかなと思いました。
E08 それは手記にも似た
くりかえしやってくる「何か」との交流。
死んでいるのか、生きているのか。
それすら曖昧な『私』と「何か」に積み重なっていく記憶があるだけの不思議な世界観ですね。
「何か」と触れ合う度に、『私』の輪郭が朧気とはいえ見えてくる。
ちょっとずつ分かってくる『私』に祈るような気持ちで読み進めていきました。
「何か」を便宜上、彼女とするところに淡い恋心が見え隠れします。
>指輪の類はついていない
目聡いですね。
そういうところをきっちりと押さえているのが『私』の狡猾なところですね。
確認したくなるのは分かります。
ゆっくりと育まれた愛情。
夢の中を散策する幸せ。
それ故の別離。
いつか、確実にやってくる終わりが切なかったです。
ラストシーンで一転。
取り残された彼女の気持ちが痛いぐらい哀しかったです。
E09 夜の谷で
勤労少年トラッドの物語かと思ったら、華やかな経歴の持ち主ベダクさまの登場ですね。
英雄譚に出てくる登場人物に出会ったトラッドは幸運なのでしょうか。
血を浴びると魔物になるという設定と、帰りの森が少しずつ表情が違うという設定が見事に活かされていますね。
旅の終わりは英雄譚にふさわしく悲劇的です。
>癒す「しか」できない者と言われる。
ベダクさまが選ばれた理由が語られますが、切ないです。
トラッド少年の心に刻まれたことでしょう。
最後に話すことができてベダクさまも、嬉しかったんじゃないんでしょうか。
誰にも話せない話だったでしょうし。
沈黙を保つには重すぎる話ですよね。
濃厚なファンタジーでしたが、説明口調になってなくて、自然と世界観に馴染めました。
E10 夢の異世界ダンジョンへGO!
>彼女いない歴二十年の僕。
>夢の中でもかまわない。女子高校生の美脚を触りたい。
どんなフェチですかー!
と、叫びたくなる面白展開ですね。
そんなこと言っているから、彼女ができないんじゃ。
異世界風ダンジョンという設定で、女子高生がいるというのが不思議ですね。
現代風の学園生活のほうが機会がありそうだと思うんですが。
どこまでも、前向きな『僕』に笑みがこぼれます。
まさか、まさかの展開です。
女の子に触れたいって欲求に素直すぎます。
しかし、二度目の試みも正解ではないようですね。
これから富士夢見館の常連になるのでしょうか。
女子高校生の美脚に触れるまで。
そんな未来が想像できて、楽しい作品をありがとうございました。