並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

Bブロック感想

 自分の実力棚上げ。
 感想というよりも叫び。
 ネタバレ満載の感想を書きました。



B01 −−ス・ガ・ル・テ

 冒頭でさらりと紹介された杉谷さんですが『霊能力者』!
 どんな難解な事件が展開されるのか。
 『私』はどうなるのか、気になる始まり方ですね。


 設定が面白いですね。
 水子の霊だというから「男性関係も華やかだったのかな?」と思ったら
>男すら知らない私の体に纏まつわりついた霊が
 ときっちりと書いてありました。
 それじゃあ、この霊はどこから? と考えていたら、まさかのどんでん返し。


 呪詛のように繰り返される霊の言葉は怖かったです。
 ひたひたと近寄ってくる感じで、薄暗いラストシーンまで気が抜けませんでした。



B02 フーガには二つ星を連ねて

 フレイが語りかけてくるような口調のお話。
 偶然、すれ違った人同士が世間話をするような感じが好感が持てました。


>重さがじつに七ファルガンという大岩を置いた。
 ファンタジーですね。
 本格的なファンタジーで、単位も独特ですね。
 それなのに物語の中にスッと入っていける。
 どんな逸話があるのだろうかと、先へ先へと読み進めたくなりました。
 後半で
>雄牛一頭を一ファルガン
 と、さらりと重さを想像させる文章が挿入されて、見事だと思いました。


 切ない。
 誰かに聞かせて、それこそ何度も聞かせても足りない。
 僕の後悔のお話ですね。
 だから、作中に降る雨がまるでフレイの流せない涙のように感じました。



B03 ジャクリーンの腕

 精密義肢師の師弟の話は興味深いですね。


>人の心に寄り添うことが彼はとにかく苦手なのだ。
 視点人物であるクリフの弱音に驚きました。
 これまで読んできた彼の物語は繊細で、優しい感じがしたので。
 逆撫でするような人物には見えませんでした。


 やられたー!
>「アンドロイド」
 このネタバレが来るまで気がつかなかったです!
 そりゃあ、人の心を理解するのが苦手なはずです!
 謎が解けて、作者さんの手の内に転がされて、気分は爽快です。


 その上で、さらにどんでん返し。
>「ええ、私は最初から私よ。ずっと、ね」
 素晴らしいです。
 伏線の回収が見事です!



B04 マリー・アントワネットの手を取って

 おしゃべりな『あたし』が語りかける文体は、ふわふわとしていて、前向きで、素敵です。
 子供がいなくなるのはよくあることなのでしょうか。
>あたしはどうしたってママンのアンなんだから。
 そう強がる『あたし』が健気でした。


 誘拐犯とそれに親しむ場末で育ったちいさな女の子の物語は終わりを見つめながら始まるんですね。
 お互いたいそうな名前で、数奇な人生を歩むことになった偉人たちのように、二人の人生も奇妙でした。


>いつだってアマデウスとあたしは右手と左手を繋いでたんだもの。
 それだけの理由。
 それだけで十分な理由。
 二人の間の信頼関係は揺るぎないものになりました。
 とても素敵な二人のシルエットが浮かび上がるような一文でした。



B05 赤い手 白い手

赤い手 視点。
 鞠子ちゃんは優しくて、清らかで、素敵な女の子ですね。
 ぼくにとって、まさに救いの女神。
 半分だけ血がつながっているというのも、二人の関係を絶妙にしていいですね。
 完全に兄妹じゃない。
 赤の他人のように恋に落ちるわけでもなく、純粋な兄妹なわけでもなく。
 巧妙な人物配置だと思いました。


白い手 視点。
 え!?
 まさか、そんな!!
 でも、辻褄が合うんですよね。
 張り巡らされた伏線の回収に脱帽です。
 まさに大どんでん返しで、鞠子ちゃんの笑顔は素敵なものだったんでしょうね。
 こういう歪な性格な女の子も大好きです。



B06 手児奈物語

 お、時代物!
 しかも平安時代でしょうか。
 東国の地で元気に育った少女が目に浮かびました。 
 それから中宮にまめまえしくお仕えする乙女の姿も。
 儚くなってしまった中宮は、時代の流れを感じました。


 春風の“送り物”とは何とも風流なものですね。
 心寄せてくれる誰かがわからない。
 返事が不要なそれは、いつしか日常のアクセントになったんでしょうね。
 きっと真間君の心の慰めになったことでしょう。


 一回の出会いが一生の記憶になったんでしょうね。
 個人的にはまとまって欲しかったんですが、それは贅沢というもの。
 春の“送り物”は秘密めいた想い出になったことでしょう。



B07 イハンスにやらせろ

 パン泥棒かと思った小僧の口から出た言葉は
>「俺、糖蜜をかきまぜた事ないんだ」
 ガラスの頃合いを知るためだったんですね。
 だから、蜂蜜のあるジナンナの窯にやってきた。
 慎ましやかな生活がうかがい知れます。
 それと、ジナンナの温かさがわかります。


 耳が聞こえない小僧――イハンスだからできることがある。
 それって素敵なことですね。
 中盤まで、イハンスが障害を抱えていることに、気がつきませんでした。
 てっきり健常者だと思っていました。
 伏線にビックリです。
 読み返してみれば、そういう描写もありましたね。


 タイトル通りになって物語が終わるところがいいな、と思いました。



B08 花咲と白い犬

 また時代物かなと思って読み進めていたら、現代ものでした。


>あやかしを退治するための刀
 それを作るために贄として連れてこられた犬。
 咲良と共に育ち、仲良くしている姿が可愛いです。
 上京しても連れていくのも、良いですね。
 幸せそうです。


>それを見てようやく、目の前の男が全裸であることに気がついた。
 思いっきり不審者だー!
 あやかしとのバトルシーン。
 その後の変化。
 ちょっとワクワクしちゃいましたが、ここは現代日本の昼間。
 これは恥ずかしいですね。


>「これは外せませぬ。主様が初めて私に下さったものですから」
 咲良はドン引きしていましたが、不知火のこういうところが好きです!
 というか、就職が決まってからのくだりが萌えです。
 ヤバすぎるぐらい滾りました!
 咲良が就職が決まらないように、嫁ぎ先も決まらなさそうです。
 不知火が折れる気はなさそうなので、がんばれ咲良。



B09 手の行く方へ

>手もたまには歩いてみたくなったんじゃないかと、男は至極あっさり答えた。
 手に導かれるのですね!
 たまにはスキップしたり、ダンスをしたくなりますよね。
 そんな不思議な話も信憑性があります。
 誰かに話したくなるようなお話ですよね。


 一日、いえ数時間の逃避行をした私。
 日常から切り離されて、何をしているんだろうかと思いもせずに、ただ向かう。
 それは手が、私が社会のしがらみから解放されたいと願っているのに、気がついていたからでしょうか。


 口伝えになっていくんでしょうね。
 伝承が生まれる瞬間に立ち会えた、と思わせる作品をありがとうございました。



B10 ローマでも長安でも洛陽でもない、ある都の休日

 まさかの異世界トリップ。
 しかもたった数年で、異世界に馴染んでいる!
 こういうのは人柄なんでしょうね。
 苦労を苦労とは思わない。
 そんな忍耐強さが想像されました。


 有美人は残酷な人かと思ったら、実は……。という展開は面白かったです。
 てっきり王の寵愛を受けて楽しんでいるタイプだと思っていました。


 李典偉こと大木ノリヒデは
>愛読書は吉川三国志
 で、しかも
>経歴を知らぬ人ならば、「気は優しくて力持ち」と形容したくなる。
 って、許チョ三国志演義)を思い出させます。


>はるか未来から呼ばれながら、乱世に覇を唱えず名も挙げず、自分はこのままこの時代の市井に埋没して一生を終える。
 誰に呼ばれたのか気になるところですが、李典偉は小さな幸せを大切にしたいようなので、これはこれで良い終わり方なのかもしれませんね。



B11 手探りカデンツ

>私の名前を「くらもっちゃん」なんて独特の呼び方をする
 これは気になる関係ですね。
 『私』とどんな縁があるのか、読み進める手が逸ります。


>「連絡先、知らないから教えて。くらもっちゃんに興味湧いた」
 って言って、勝手にスマホをいじられる『私』。
 きっと今日は厄日だろうな、と思います。
 『私』が内向的な女性に見えるからでしょうか。
 五線譜を印刷していたから、同じ音楽(?)を携わる者として、興味が湧いたんでしょうね。


 窓野くん大胆。
 くらもっちゃんって呼び方。
 ちょっと軽薄そうな話し方。
 そんなものに騙されそうになりますが、狙った獲物は外さないタイプだと思います。
 これから『私』は盛大に振り回されるんでしょうね。