並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

現パロ『鳥たちの見た夢』

ヴァレンタインデーも近づいたということで『鳥たちの見た夢』でも現パロで。

 前回の現パロである【現パロ】イフ・海月 - 並木空の記憶録を読んでないとわかりづらい表現があるかもしれません。
 小話と言いながら、3千文字(原稿用紙換算11枚程度)オーバーしています。


 現パロなので、誰も死んでいない状態での平和なヴァレンタインデーネタです。
 中華風ファンタジーから現代ものに持ってきたので、年齢操作してあります。
 視点人物のホウチョウが四大卒の22歳ぐらいになっています。
 現実的な年齢には合わせていないので要注意です。


 本編『第七部 来訪者』読了前提の登場人物も含まれています。
 人物設定の備考欄にも書かれている特技の話も出てきます。


 名前がかすりもしていませんがソウヨウ×ホウチョウのつもりです。

 鳥陵財閥のご令嬢であるところのホウチョウは暇を持て余していた。
 花嫁修業でもしていろ、と兄たちからは言われそうではあったけれども。
 あるいはホウチョウの面倒を見てくれる秘書のメイワは目くじらを立ていたかもしれない。
 幸いなことに、メイワは今日は休日だった。
 今頃、忙しくチョコレートを見繕っているかもしれない。
 妙齢の女性らしく。
 ちょうどいい遊び相手だった華月もあっさり断ったのだ。
 沖達とデートするからダメだと。
 まあ、デートと呼んでいいのかはわからないスケジュールではあったが。
 苦手教科でも、まずまずの成績を修めたので、ご褒美として遊園地に連れて行ってもらうそうだ。
 どう考えても親戚のお兄さんに遊んでもらう子どもだろう。
 デートの相手は鳥陵財閥の子会社の一つの『海月』の代表取締役だ。
 普通だったら休日であっても、それなりに忙しいはずだろうが、ホウチョウのすぐ上の兄が調節してしまったのだ。
 あいかわらず華月には甘いらしい。
 自分の彼女は、どうしたのだろうか。
 そんなことを訊きたくなるような甘さだった。
 その皺寄せで、ホウチョウは暇になってしまったのだ。
 誰かが仕事を休めば、誰かが仕事を肩代わりしなければいけない。
 ホウチョウは暇つぶしにチクチクと刺繍をしていた。
 ぼんやりと窓辺で。
 部屋から出歩いてたらメイワが置いていった秋霖に見つかってしまったのだ。
 華月よりも幼い少女は口数の多さをのぞけば優秀なメイドだった。
 義務教育中の子どもには見えなかった。
 なので、無聊の慰めに刺繍をしていたのだ。
 それももうすぐに終わってしまいそうだった。
 オリーブの緑色の葉が生き生きと描かれている白いハンカチ。
 イニシャルの入りのものである。
 メイワが離席中ということで、せっせと縫っていたわけだったけれども。
 こんなものを見つけられたら怒られるだろう。
 父や一番上の兄が好む華やかな紅ではない。
 年の近い兄が好む落ち着いた藍ではない。
 どこか地味なオリーブドラブである。
 過保護な家族たちは間違いなくホウチョウから刺繍中の白いハンカチを取り上げただろう。
 最後の一刺しを玉止めして、ホウチョウは糸を切った。
 針山に針を戻す。
 枠から外して、ハンカチの出来栄えを見つめる。
 売り物にしても遜色のないものだと、自画自賛したくなる。
 もっとも、それを受け取ってくれる相手はいないのだけれども。
 ホウチョウは深々とためいきをついた。
 今頃、忙しく働いているだろう。
 主に華月に甘かった兄のせいで。
 ホウチョウだってヴァレンタインデーのデートぐらいしたかった。
 体が若干弱いホウチョウが華月のように遊園地に行くことはできないかもしれないが、人気の少ない美術館や水族館ぐらいなら行けたかもしれない。
 別に邸宅の庭を巡るだけでも良かった。
 この季節にしか咲かない慎ましやかな花や花期の長い花を楽しむことぐらいはできただろう。
 あるいはメイワのようにチョコレートを物色できたかもしれない。
 どんな我が儘も許されているように見えるホウチョウではあったが、キッチンに立つことはもちろん、催事場に行ってチョコレートを選ぶなんて許されていなかった。
 通信販売で取り寄せる、という手もあったが、誰に贈るのだ、と家族たちから詰問にあうに決まっている。
 義理のチョコレートであっても、おそらくは兄たちはいい顔をしないであろう。
 自分たちはそれぞれ意中の女性どころか、段ボールを用意しても足りないぐらいに貰ってくるくせに、ホウチョウが男性に贈るのは許されていないのだ。
 憂鬱にもなるような事柄だった。
 年頃の乙女としては、何故、ヴァレンタインデーに便乗をしてはいけないのか。
 どれだけ泣いて訴えても、無駄なのだ。
 昔は許されていたのに、この数年で駄目になったのだ。
 味方であるはずのメイワですらいい顔をしないのだ。
 ホウチョウには理解できなかった。
 これがライバル会社の社長辺りだったら、大問題だろう。
 が、しかし兄たちが信頼している相手なのだ。
 わざわざ仕事を割り振って――というか、仕事を押しつけて、難しい案件であっても裁量を任せるほどの相手である。
 何が不満であるのか、わからない。
 ホウチョウは何度目かのためいきをついた。
 パタパタと軽い足音を立てて、秋霖が部屋にやってきた。
「お嬢様。お手紙が届いています」
 飾り気のない白い封筒は、椿の花のように紅いシーリングワックスで閉じられていた。
 差出人の名前は書かれていなかったが、宛名は見覚えのある筆跡だった。
 それに微かに香るインクの香り。
 万年筆で書かれたそれは流麗で、年の近い兄にも似た文字だった。
 当たり前ではあったけれども。
 親族を亡くした幼なじみと呼んでも差し支えのない相手を面倒を見ていたのは、年の近い兄だったのだ。
 兄たちは弟が欲しかったのかもしれない。
 面白半分で、色々なことを教え込んだのだ。
 もともと上場企業の会社の令息だった少年はエリートコースまっしぐらの道を歩まされることになったのだ。
 ホウチョウに課せられた以上の教育を与えられ、まだ大学生だというのに、すでに複数の会社の面倒を見せられている。
 そのおかげでとっても忙しいわけだったが。
 そんな相手から手紙である。
「ありがとう」
 ホウチョウは手紙を笑顔で受け取った。
 ペーパーナイフで開封すれば、白い便箋が現れる。
 迷いのない筆跡は修正された箇所一つなく、淀みもなかった。
 次にお目にかかる日を楽しみにしているとしめられていた。
 どうやらしばらくは会えないようだ。
「返事は書いちゃダメですよ!
 メイワさんから頼まれているんですから。
 私、見張っていますからね」
 秋霖が釘をさす。
「……秋霖こそ、ヴァレンタインデーだって言うのに、渡したい相手はいないの?」
 ホウチョウは尋ねた。
「チョコレートですか?
 もちろん兄に贈りますよ。
 もっとも、最近は友だちを遊んだりする方が楽しいみたいですけど。
 いい加減、彼女でも作って欲しいとは思うんですよね。
 しっかりしているように見えていて、意外なところは抜けてますから」
 秋霖はサバサバと言った。
「あら、お兄さんにしか贈らないの?
 思いっきり義理チョコレートじゃない。
 好きな相手とかいないの?」
 ホウチョウは尋ねる。
「兄以上に素晴らしい男性がいたら、考えます」
「今、抜けてる、って言ったじゃない」
「完璧な人間と交際したいとは思いませんから。
 自分の欠点ばかり目立って、嫌になっちゃうじゃないですか?
 それに兄の場合、抜けてるのは生活能力という面です。
 他は優秀すぎるぐらいですよ」
 秋霖は言った。
「そうね、秋霖は優秀だから、ちょうどいい兄妹といったところかしら?
 生活能力がないなら、他人を雇えばいいだけなのだから」
 ホウチョウは納得した。
 実際のところ、ホウチョウだって生活能力は皆無だった。
 中流階級の家庭における専業主婦的なことはできないだろう。
「私もヴァレンタインデーらしいことをしてみたいわ」
 ホウチョウは零した。
「ちゃんと手紙をもらっているじゃないですか?」
「どういう意味かしら?」
 ホウチョウは小首をかしげる
「西洋では手紙や花束を男性から貰うものですよ。
 しかもヴァレンタインデーの由来は、結婚を禁じた皇帝の目をかいくぐってヴァレンタイン司祭が秘密裏に結婚式を挙げさせた、というものです」
 秋霖は言った。
「まあ、素敵。
 内緒ってことね」
 ホウチョウはにっこりと笑顔を作った。
 それを知っていて相手も、忙しい中、手紙を書いてくれたのだろう。
「……会えなくても、声ぐらいは聴きたいわ。
 贅沢かしら?」
 自分の名前が書かれている手紙を見つめながらホウチョウは言った。

 『鳥たちの見た夢』総目次ページ
 http://one.chips.jp/k-sora/s-toriyume-00.html
 本編は中華風の建国記ものなので、倫理観に問題もあれば、流血・暴力シーンも含まれていますので、閲覧には要注意です。


 pixivでもヴァレンタイン企画あるので、この小話も投稿するつもりです。

理想的な結婚

 立春ということでオリジナルサイト『紅の空』に掲載されている中華風の恋愛コメディ『小説家になろう』と『カクヨム』を投稿しました

 春の麗らかなある日。
 地方都市の長官の下で、文官をだらだらと世襲のように勤めているリュ家の長女、メイファは父親のナイユから唐突に自分の縁談を聞かされる。



 直通リンク。
 『紅の空』https://one.chips.jp/k-sora/s-short01.html
 『小説家になろうhttps://ncode.syosetu.com/n9394ip/
 『カクヨムhttps://kakuyomu.jp/works/16818023212966040250


 原稿用紙24枚程度の短いお話です。
 一応、舞台は架空とはいえ『唐』ぐらいの文化です。
 年齢制限のない女主人公の恋愛コメディです。
 政略結婚ものですが、シリアスというよりもほのぼのに近いかもしれません。


 作中はカタカナ表記ですが、メイファは『梅花』という漢字を当てます。
 中国の古典文学では、「梅花香自苦寒来」(梅の花の香りは辛い寒さを耐えたからこそ)という意味があり、今でも愛されている花の一つでもあります。

WEB拍手、ありがとうございます!

 拍手、ありがとうございました!
 パチパチっと連打されていて嬉しかったです。