並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

【現パロ】イフ・海月

『鳥たちの見た夢』の『外伝・海が抱く月の夢』の現パロです。

Picrewさんで遊んでみました - 並木空の記憶録
 で、語ったように現パロで遊んでいたものです。


 本編がきつい時期だったので、誰も死んでいない状態です。
 若干、中華風ファンタジーから現代ものに持ってきたので年齢操作が行われています。


 視点人物は華月です。
 民法改正前なので16歳の女子高生です。
 本編と違うのは、現代女子高生らしく恋愛に自覚があるところでしょうか。


 偽装結婚で、従兄妹のお兄さんを振り向かせたい、という、あるあるネタですね。


 原作はコチラ。
鳥たちの見た夢 外伝・海が抱く月の夢

 パチパチ
 パチパチパチ
 リズミカルに叩かれる音。
 それは良く聞く音だ。
 だから、この音に眠りを邪魔されることはない。
 今、目が覚めたようとしてるのは、たんに眠り足りたからだ。
 少女は瞳を開いた。
 キーボードを叩く音。
 音を立てている主はブラインドタッチができるから、その視線はずっとモニターに注がれている。
 青白い光に照らされた顔。
 『怜悧な美貌』と言うのはこう言うことだろうか。
 眼鏡をかけているのは家の中だからだ。外で働いているときはコンタクトをしている。
 銀縁のフレームが良く似合っている。
 でも、少女は知っている。
 冷たく見られがちな容貌が眼鏡をかけると輪をかける結果になることを男が気にしていることを。
 本当はコンタクトが好きじゃない。だから、家にいるときは眼鏡をかけている。
 それを知っている人は、そうたくさんいないはず。
 優越感がくすぐられ、少女は微笑む。
 男の膝の上に、頭を置きなおす。
「起こしたか?」 
 優しい声が降ってくる。
「ううん。
 自然と目が覚めたの」
 膝枕をしてもらっているのが嬉しいので、寝転がったまま。
 優しい手が少女の頭を撫でる。
「お腹は?」
「ちょっと、すいたかも」
「じゃあ、何か作ろう」
 男はキーボードのキーをいくつか打つ。
 薄暗い部屋に電子音が切なく響いて、ノートパソコンは静かにブッラクアウトした。
 名残惜しい。
 そう思いながらも、少女は体を起こした。
 ソファに座りなおして、あくびをかみ殺す。
「制服のまま寝るのはやめなさい」
 男は少女の額を軽く小突く。
「んー。
 気をつけてはいるんだけどね」
 少女は自分の制服を見下ろす。
 真っ黒なプリーツスカートはしわしわになっている。
「アイロンをかけておくから、着替えてくるように」
「うん。
 そうする」
 少女はのろのろとソファから降りる。
「何が食べたい?」
「何でも良いや」
 少女はそう言うと、自分の部屋に向った。


 少女の名前は海 月華。あだなは華月。
 名門私立シュホウ学園 高等部ピカピカの一年生。
 二組 出席番号七番。
 得意教科は体育で、苦手教科は数学と家庭科。
 身長152センチ、体重はナイショ。
 長所は明るいところ、短所はあんまり考えないところ。
 ごく普通の女の子。
 ちょっと変わったところがあるとしたら、16歳で人妻であることぐらい。
 少女には旦那様がいるのだった。
 旦那様は株式会社『海月』の代表取締役である。
 海 朗達、あだなは沖達。年齢35歳。ちなみにクールビューティー
 初めは偽装結婚でしかなかったのだが、そのうち二人は自然と惹かれあい……と都合よく話が運ぶはずなく、二人の関係は親戚のお兄さんと手のかかる女の子だったりする。
 そう二人は親戚で、相手はあろうことか少女のオムツを替えたことすらあるらしい。
 これではなかなか異性として意識してもらえない。
 今日こそは、とは思うのだけれど空振りしてること多し。
 

 少女がリビングに戻ると、室内は明るく電灯が灯っていて、ご飯ができていた。
 ほかほかと湯気を立ててるシュウマイと野菜たっぷりの塩ラーメン。
「はい、制服」
 しわしわになったスカートとジャケットを示す。
「その辺に置いといてくれ」
 指し示された場所に素直に置く。
 華月はいそいそと席に着く。
 沖達の作るご飯はとても美味しいのだ。
 エプロンを外しながら、沖達の席に着く。
 時刻は9時。少し遅い晩御飯である。
「「いただきます」」
 箸を挟んで、手を合わせる。
 ちゃんと挨拶したら、さっそくラーメンに箸をつける。
 ちなみに学校では「天にまします我らが神よ~」という挨拶をする。
「今日の学校はどうだった?」
 旦那様である前に保護者である沖達が訊く。
「フツーだよ」
 可もなく、不可もなく。
 華月はラーメンをすする。
「普通と言うことはないだろう?
 それなりに何かあるはずだ」
 華月的には逐一ご報告は、子どもっぽくて嫌なのだが、沖達は許さない。
「あえて言うなら……。
 沖達がいなくて、寂しかった」
「……」
 沖達は額を押さえて、ためいきをついた。
「ホントのことなのに」
 華月は唇を尖らせる。
「他には?」
「鳳の車、新しくなってた」
「は?」
テスタロッサだって。
 送ってくれるって言ってたけど、二人乗りでしょ?
 鳳の彼女さんに悪いから、ちゃんと電車で帰ってきたよ」
「……相変わらず、うなるほどの金を動かしてるな」
 沖達は呟いた。
 フェラーリテスタロッサを乗り回す鳳なる人物は『海月』の親会社『鳥陵財閥』の会長の次男坊である。
 バブル崩壊で事実上の倒産をした『海月』の全社員を救ってくれた大恩人である。
「沖達はああいう車、買わないね?
 どうして?」
「燃費が悪いからだ。
 車なんて軽で充分」
「ふーん。
 世の社長さんは、もっと派手な車乗ってるのに」
「華月は派手な車の方が良いのか?」
「ううん。
 沖達の車、可愛い色をしてるから大好き」
 華月はにっこり笑った。
 沖達の名誉から言えば、車の色はごくオーソドックスにシルバーである。
 ライトの形は華月たってのお願いで、真ん丸な形をしているが。
「そういえば、お誕生日会に招かれたの。
 行っても良い?」
「どこの?」
「ファンのお誕生日会だよ。
 沖達も是非、出席してくださいって」
「仕事の都合しだいだな」
「それは大丈夫。
 強制的に休みにするって、鳳が言ってたから」
 全然大丈夫ではないことを華月は言う。
「……考えておこう」
「それって、やらないってことだよね。
 婉曲的な断り? って言うの?
 この前、教えてもらった」
「誰に?」
「春蘭」
 遠縁のお姉さんで、何かと華月の面倒を見てくれる人物である。
 株式会社「海月」の秘書でもある。
「テレビで政治家が言ってたんだ」
「……なるほど」
 沖達は考え込むように、軽くうなずいた。
「ボク、沖達と一緒に行きたいんだけど。
 ダメ?」
 華月は上目遣いで沖達を見た。
「仕方がない。
 顔だけは出す」
「ホント?
 やったー!」
 華月は機嫌良く笑う。
 大好きな沖達とパーティだ。
 嬉しくないはずがない。
 当日はおめかしをするのだ。
 その上、お泊り決定なのだ。
 これで、二人の関係は一歩前進するはず。
 華月は密かな野望を胸に秘め、ぎゅっと箸を握り締めるのだった。

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 パチパチっと嬉しかったです♪