自分の実力棚上げ。
感想というよりも叫び。
ネタバレ満載の感想を書きました。
C01 その手が隠したものは
>「やめろ!俺を乗っ取るな!」
>平和な昼下がり。
冒頭から飛ばし気味ですね。
平和な昼下がりを破ったのは中二病患者?
まさにテンプレ通りの言動が繰り広げられて、ワクワクしました。
それがまさかの
>『銀行強盗!』
だったとは。
奇怪な印象が残っているので、顔をよく見ていないという設定が活きますね。
現実はそんなに簡単にお金を渡すことはないとは思いますが、銀行員も場の空気に飲まれたのでしょうか。
答え合わせの後半シーン。
演技だったとは、恐れ入りました。
名演ですね。
C02 月下鴨川、モノノケ踊りて、絵師が狩る。
>「月舟シリーズ」
妖怪絵師が描いた作品というのは気になりますね。
しかも若くして亡くなったというのだから、いわくつきですね。
てっきり江戸時代末期を繰り広げるのかと思ったら、ストーリーは現代へ。
どんなお話だろうか、と展開が気になりました。
>呪われた絵師の家系の出である。
呪われた絵の真贋を極めることができるのは血筋だからでしょうか。
詩子さんと七森さんの関係は、もどかしいです。
ただの幼馴染じゃないところが素敵です。
モノノケとのバトルシーンは絵を描いているだけなの熱量があって、飲みこまれました。
滾りますね!
>やさしくて嘘吐きな七森さん
詩子さんのこのフレーズに萌えました!
描きたいのを分かっていて、それでいて描けない七森さんの葛藤を見透かすようです。
C03 死の手招き
50後半の独身の『私』の独白は非常に重たいものです。
文字の圧縮度にやられました。
生きることがどんなに虚しいのか。
切々と語りかけてくる口調は、ただただ辛いです。
自分もその歳になったら、そう感じるようになるのでしょうか。
死生観が苦しかったです。
一見、恵まれて育ったような人生ですが、『私』から見れば違って見える。
両親への恨みはないと『私』は言いますが、大きなトラウマになっているんじゃないでしょうか。
>結婚は元より、本人曰く恋人の一人もいなかったのかは、分からない。
同窓会で会うマドンナの出現に、読んでいるこちらもときめきました。
外見だけではなく、内面も美しいと『私』が語るので、本当に素敵な女性なのでしょうね。
それなのに独身を貫いている理由が知りたくて、スクロールする手が逸ります。
最後の最後で理由が分かり、すれ違ってしまった85年という歳月の重たさを知ります。
親友の死を乗り越えて、クラスメイトの死を乗り越えて、最愛の人の死を乗り越えて、心安らかになっていく『私』の死生観の変わり方が、これが「生きる」ということなのか、と思いました。
C04 なにも宿らない
>私のピアノで人の心は動かない。
ピアノを目の前にすれば、貪るように弾くという『私』にとって、何たる評価でしょうか。
どれだけピアノを愛しているか分かるだけに、この一文は辛いです。
そして、それを裏付ける笑い声。
それでも弾かずにはいられない『私』の今まで生きてきた軌跡が気になりました。
思ったよりもハードな人生を歩んできたんですね。
それでもピアノへの情熱を忘れられられない『私』は、ほんとうに不器用ですね。
そんな姿を見た彼女の
>「きれい」
という感想は、皮肉に聞こえたでしょう。
彼女は「きれい」だから「きれい」と素直に言っただけだと思います。
技術だけだと思っている『私』に人の心は動かせない、というのは違うよ。と言ってあげたくなりました。
ピアノへの熱量が狂おしいほど、『私』の精神は捻じ曲げられていくのでしょうか。
ただ好きで弾いていた幼い頃を思い出してほしいと思いました。
C05 鏡の中にいて私の中にいなくてあなたの中にいるもの
不思議なタイトルですね。
謎かけみたいで、どんな結末が待っているか気になりました。
>まるで水のように大鏡の中へ、私の手と白い袖が潜る。
神秘的な光景ですね。
さすが巫女の血筋!
超常現象が目の前で起きているのに、怖くなかったのはあずさが優しいからでしょうか。
寄り添いあう心があるので、不思議と安心して読み進められました。
>テプラで印刷した封印シールを張っておしまい。
巫女さんも現代的!
せっかく払ってあげたのに鈴原くんは、嫌な奴ですね。
まあ中学生という微妙なお年頃の反動なんでしょうが。
女子に負けるなんて悔しいでしょうし。
でもお礼ぐらいはきちんと言って欲しかったと思いました。
最後の一文はホラーですね。
「手」の解釈が面白かったです。
テーマの消化の仕方が、上手だと思います。
C06 憎たらしい愛にさながら
>味噌汁事件
地域によって、入れる具材は様々ですよね。
私も胡瓜の味噌汁が出てきたら、驚いてしまうかもしれません。
美味しいのでしょうか。
でも、新婚早々、溝を作ってしまったのは『私』の欠点ですね。
三大欲求の一つだから譲れないところなのかもしれませんが。
おかわりをした姿が可愛らしいです。
>おまえ在りきの幸福であったことは、伝えられていただろうか。
切ない。
語り続けている間に、『私』がだんだん素直になっていく。
それをさりげなく表現している作品です。
最初は、横暴な旦那さんで奥さんが苦労したのかな、と思っていましたが違いました。
その辺りの描写力がすごいです!
最後の締めの文章も、本当に丁寧でちょっと素直になれない男心を表していて素敵でした!
いや、涙腺が緩むような作品でした。
C07 迷い子の手
異国情緒あふれる世界観ですね。
王子であったダルメイが魔法使いの弟子になっているのは、驚きの展開でしたが。
読み進めていくうちに納得。
生き残るために、すべてを捨て去ったのですね。
ハノンと二度と会えないから見た夢なのでしょうか。
冒頭の
>私には左手が二本ある、と彼女は言った。
ハノンの設定が心に引っかかる一文で、つかみかかられてしまいました。
後半部分の場面展開でビックリ。
まさか近未来とは。
映美ちゃんの話をもっと読みたかったです。
ダルメイとハノンのお話の後、二人はどうなったのか。
気になる部分がたくさんあって、やられたって感じの気分です。
C08 ナインティーン・イレブン
一気の読んでしまいました。
コンスタンスが自殺しなくて良かった。
冒頭部分でハラハラとしました。
本当に絶妙なタイミングで鳴った携帯電話ですね。
それから始まるカフェでのやりとり。
心から愛していた人はとんでもない虫けら野郎だということが判明していくのは、ドキドキの展開でした。
何でも食い物にしていく男で、肝心なところで言い訳ばかり。
そんな男にたぶらかされていたとは、何とも切ない。
自分の身の安全の方が大切な男にジーンが打った一芝居に、将来を棒に振ってもいいと思えるほど、コンスタンスが好きだったんだな、というのが伝わってきて良かったです。
二人はこれから新しい町で、幸せに暮らしていくんだろうな。
そう思えるラストシーンが好きです。
まるで洋画を見ているような気分でした。
C09 プディヤの祈りは銀の蝶になって
おお、どっぷりとした異世界もの。
独特な世界観がするすると読みこめたのは作者さんの技量ですね。
これで6千文字以内とは脱帽です。
プディヤが刺繍する姿は巫女姫のごとく美しかったです。
大好きな従兄のために婚礼衣装の刺繍をするのは、哀しいですね。
幸せになって欲しいと思う反面、どうして自分は子供なのだろうか。
選んでもらえなかった切なさが刺繍を中断させてしまう。
揺れる乙女心ですね。
その情景もまた、地についていて良かったです。
炎龍鳥狩りの設定も素敵ですね。
大人になるための通過儀礼。求婚儀式の一部。それには危険が潜んでいる。
幼いプディヤの気持ちに寄り添って、こっちもハラハラしてきました。
刺繍を刺し直す姿が切なかったです。
最後のシーンでプディヤの歳を知り、大人びた子供だなと思いました。
ユウアムに
>いつまでも僕のちびちゃんだとばかり思っていたけど
と言われるのも仕方がないです。
素敵な初恋を心に宿して、いつかは美しい女性になりそうだと思いました。
C10 奇病と難病
目を引くような注意書きのある冒頭に、どんな病気が出てくるのだろうか、と首をひねりました。
仮想現実だけの付き合いだったのが、偶然にも現実で会うことになる。
それは秘密にしていたことが暴露されるようで、嫌ですよね。
難病だと気遣われるのも嫌だし、普通でいたいですよね。
カーテン越しの会話は、ボクにとってちょうどよい距離感なのかもしれませんね。
それこそ目隠しをしているような状況で。
それは、どちらも一緒なのかもしれませんね。
>一生に一度のわがまま。
彼も普通のことがしたかったのかもしれませんね。
だから調べ上げた。
ゲームを通して仲良くなったのも、全部、計算した内なのでしょうか。
そうと分かっていても、彼なら許したいと思ってしまう。
それは奇病を患っているからでしょうか。
>それが最初で最後の彼との出会いだった。
この一文が重かったです。
二人が二度とゲームの中でも一緒にいられなかった。
そう暗示させるようで。
C11 トゥルーエンド
異世界の世界観たっぷりですね。
贄になる女性の選別。
選ぶルートは彼女の心の中で決まっている。
>私には、選択肢が二つある。
国の未来を思って、自分の幸せを投げ捨てる。
そうそうできる覚悟じゃないですよね。
二つのルートは、そうじゃないと蒼が出ていき黎が入ってきた時に、分かりました。
てっきり軍人の蒼と結ばれるエンドと国のために死ぬエンドの二つのエンドなのかなと思っていました。
アカネが入ってきて、さらに驚きました。
モモが本当の名前なのでしょうか。
>貴方が其の地で散ることで、私の御霊が土地に根付く。
輝陽が口にしたのは、暗い未来。
蒼が必ず死ぬという運命。
それゆえに、開かれる明るい希望。
>私の言葉で強き王であることを誓った彼は、王座を狙う者や自らに刃向かう者を次々と処刑して独裁を敷き、三十年後に暗殺される。
言わなかったのは黎が強き王でいてもらいたいからですね。
国を守るためにあえて口に出さなかった。
アカネの前では、モモなんですね。
蒼とも黎とも口調が違っていて、神子からただの女の子になっていました。
だからかもしれませんが、そんな自然体なモモが愛おしいです。
最後に選んだ男は国なんですね。
それが真実のエンド。
一番愛した男に嫁ぐのだから、不幸せではないのでしょうね。
しなやかで強い決意です。
そんな感じがした作品でした。