並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

Fブロック感想

 自分の実力を棚に上げたネタバレ感想です。
 思ったままに書いているので、読み違えていたらごめんなさい。






F01 空蝉ばかりが残された
>続けることも才能なんて嘘。私は残ったのではない、残されただけ。
 気になる独白から始まる物語。
 残される側の心境は、いつでも辛いものですね。
 割り切れない“私”が見え隠れして、切ないです。


>気づいたら同じ道を進んでいる人は誰もいなかった。
 取り残された孤独感は、ここでも強調されます。
 かつての朋友はみな別々の道を歩き出していることが“私”の感情に波立たせる。
 常盤が純粋な分、“私”の気持ちは複雑なものになります。
 そこが丁寧に書かれていて、同情的な気持ちになりました。


>それでも私は剣を置かない。
 主人公の決意は潔いものでした。
 迷いが吹っ切れたようで、良かったです。


F02 名前のない色
>母は僕を悲劇のヒロインにしたがったようで不快だった。
 体は男だけれども、女生徒の格好で学校に通う“僕”のアンバランスさが良いですね!
 「女」であることを楽しんでいる“僕”を心配する母の気持ちも分かります。
 スカートをはくことを好み、性欲の対象を男に求めるのは個性的過ぎます。
 病気だと思ったほうが気が楽になります。
 けれども“僕”が親に反発を覚えるのは、思春期ならでは難しさですね。


 美しくなければいけない。
 そんな強迫観念に駆られる“僕”はなんて不器用なんでしょうか。
 物語の後半、髪を切られるシーンからガラリと変わる“僕”のあやふやさにハラハラしました。


 川ちゃんとの関係性が近すぎず、遠すぎず良いですね。
 こんな先生がいたら好きになってしまいそうです。


F03 鐘山に迷う
 時代小説だー!
 骨太な世界観に酔いそうでした。


 男にとって荊国公は恩人なんですね。
 政敵も多そうですが、男のように慕う民も多そうです。


 改革が裏目に出て、朝が沈んでいく様子は哀れだと思いました。
 そんな中、どちらの勢力にもつかず、世を渡っていく男の生き方は蝙蝠のようです。
 老年に達しても、心の中では荊国公の教えが残っているのがいくばくかの幸いですね。


 蛍の使い方が効果的で、巧いなと思いました。


F04 子連れ天使
>俺なんかと知り合いになってはいけない。
 どんな職業についているのか、気になりました。
 一般人には知られてはいけない類の仕事なんでしょうけれど。


 見捨てることも出来たのに、言い訳をしながら人助けをしてしまった“俺”は人が好いですね。
 アパートまで連れ帰って、お風呂と食事の用意までしてしまう。
 シビアな世界で生きているとは思えません。
 そこらの人のほうが冷たいような気がします。


 後半に入り、男の正体が少しずつ明らかになっていくのは絶妙だと思いました。
 説明があまり説明口調になっていなくて、すらすらと頭に入ってきました!
 謎が解けてスッキリとしました。


F05 異説クリュタイムネーストラー
>「愛しているわ」
 最期の言葉になるかもしれない。
 そんな時に母に戻り、発せられた言葉だと思うと胸が熱くなります。


 死後の世界で語るのは、穏やかで淑やかなただ一人の女性。
 枷を外されたからこそ口に出来る“愛”。
 忘却の川を渡る前に、誰かに知っていて欲しかったという展開が切ないです。


 ギリシャ神話の世界にどっぷりと嵌りました。
 こんな哀しい話を書ける筆力が羨ましいと思いました!


F06 イ●カに●った●年
 語り手の“私”が明朗快活なので読んでいて楽しくなりました。
 繁盛しているお店でくるくると働く姿が容易に想像できました。
 看板娘といった風情の“私”は、謎めく青年と出会ったのが運のつき。
 展開にハラハラしました。
 元気な“私”が一睡も出来ないのも当然ですよね。
 異世界ファンタジーだと思って読んでいたんですが、最後の段落でやられました。
 青年の正体がまさか……だとは思いませんでした。
 立派なSFでした。


F07 光の真実
 老魔術師と若い弟子という王道のファンタジーですね!
 弟子が見つけた法則を語る、という設定で世界観の説明をするのは見事だと思いました。
 精霊と魔術が別物だというのも典型的な展開ですよね。
 四大精霊が出てくるベタな話をどう纏めるのだろうかと気になりました。


>――光は『物』じゃよ。
 老魔術師の言葉に、弟子じゃなくても驚きます。
 ここからは老魔術師の独断場ですね!
 話の雰囲気が変わりました。


 弟子が立ち去った後の展開は「やられた!」と思いました。
 見事に老魔術師の掌に乗せられました。
 きっと弟子も同じ思いをするに違いない、と思いました。


F08 ねがはくは花のもとにて...
 タイトルに反して、SFですね!
 バグがあるAIを使い続ける。
 そんなAに初めは疑問を持ちました。
 命取りになるような事故がいつ起きてもおかしくはない。
 長年、使い続けて愛着が湧いているとしても。
 それが読み進めていくうちに、謎が解き明かされていく展開に切なくなりました。
 Aが仕事を続けている理由も物悲しいですね。
 時に悲観的になることもあるでしょう。
 それでも前向きなAが素敵だと思いました。


F09 虹色クジャクと北の森
 優しい語り口で始まるお話は、どこか童話を読んでいるような気分になりました。
 クジャク人やモグラ人といった奇妙な人たちがいるせいでしょうか。
 御伽噺めいていて、ふわふわとしていました。
 マッチの箱を軽く振る描写が印象的でした。


 ユキリククラゲの謎めく生態が丁寧に説明されていて、想像が掻き立てられました。
 調理するシーンは、とても美味しそうでした!
 雪が積もる中、コンロでユキリククラゲが焼けてる音が響くのも良いですね!


 最後の場面は最初の一行目と対照的でとても綺麗でした。


F10 聖泉鏡
 視えるのも困りものですね。
 平穏から遠ざかった日常を送る兼人は苦労性ですね。
 清二の存在が救いですね。
 兼人ひとりでは耐えられない、と思いました。
 真埜は不思議な人物(?)ですね。
 利用されているはずなんですが、憎めないです。

 
 体術を使うシーンは生き生きとしていて良かったです!
 弓術に向かう場面は特に好きです。
 前世から、こうして化け物退治をしていたのでしょうか。
 そこに真埜が関係していたりするのでしょうか。
 気になるところを残して、物語は終わりを迎えてしまいます。


F11 空の歌を捧げる歌姫の最後
>子供の頃に好きだった本があります。
 読み書きが出来ない私が夢中になった本はありふれた内容だったけれども、素敵な物語ですね。
 これが伏線になり、最後のシーンに繋がって、構成力に唸りました。
 本当に巧いですね!


 タイトルが不穏だったので心配でした。
 けれども、最後まで読んで良かったと思いました!
 これでみんな幸福になりますね!
 語り手であるリディアが解放されて、これからは家族に迎えられて元の生活に戻るのでしょうか。
 毎月報償金がなくなっても、生活が維持できるのならいいのですが。
 そこがちょっと不安になりました。