並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

Gブロック感想

 自分の実力棚上げで、好き勝手書いています。
 ネタバレ全開です。




G01 いきたいと希う
>青の色は、まるで夏の空を水面に映したかのような濃い色だ。
 鬱蒼とした雑木林から現れたのは美しい湖!
 それも空色の!
 杏菜じゃなくても近寄りたくなりますよね。
 キレイな表現だと思いました。
>「……このまま、消えちゃいたいなー……」
 蒼い色が零させた杏菜の本音。
 学校に行ってもいじめられる日々は、どんなに辛かったでしょう。
 それを思い出すシーンは、読んでるこちらまで辛い気持ちになりました。
>彼の言葉に少しだけ居場所ができた気がして、心が軽くなった気がした。
 杏菜にとって居場所探しは重要なキーシーンです。
 誰にも言えなかったことを言える人物が出来たのは良いことです。
 それがひとときのことであっても。
>唯一の居場所だと思っていた、祖母の家さえも居場所がなくなったら、一体、どこにいけば。
 居場所を無くした杏菜にとって、救われる場所は湖しかなかったんですね。
>もう、私の居場所はどこにもないし。
 杏菜が弱音を吐く気持ちが痛いぐらいに分かります。
 選択肢は一つしかありません。
 居場所を無くしたら、この世界に留まる必要はありません。
>あなたは生きるべきだと思う。
 大和のこの言葉は重いですよね。
 結局、杏菜は生き続けることを選び取ります。
 それは立派で尊いものだと思いました。
 少年たちが幽霊だということは最初は驚きましたが、最後には納得しました。


G02 火宅咲(わら)う
>噂というものは必要なもののもとに届くようになっているようだ。
 冒頭の一文は何とも謎めく一文なんでしょう。
 どういう意味を持つか、気になって読み進めてしまいます。
 彼女が終電間際の電車の中で見聞きしたことは、酔いから辻褄を合わせるのが大変ですね。
 酔っているから、なかなか情報が得られない。
 情報がまとまらない、というのが上手いなぁと思いました。
 じっくり時間をかけて集まった情報に、やったぁと思いました。
>その客が帰る姿を見た人はいない。
 ホラーですね。
 行ったはいいが帰ってこれない。
>沈みかけた夕方の光が入り込み、部屋を赤く染めた。
 未来を暗示させるような一文で効果的だと思いました。
>「来られて良かった。願いを、叶えてください」
 叶えられたことを喜ぶべきか、憐れむべきか。
 彼女は来れて良かったと言っているから、これは彼女自身がようやく自我を持って選んだ答え。
 きっと幸福なのでしょう。
 彼女にとって必要なことだったのでしょう。
 冒頭の一文のように。


G03 これから朝が訪れる
>私は今夜、世界中のどこにもいないんだ。
 夜、この呪文を唱えて眠るレイラが不憫でした。
 自分という存在を消してしまいたい、という願いがこもっているように見えました。
 エレナとの交流は心温まるものでした。
 仲良くなる過程が丁寧に描かれていて、エレナがレイラの救いの女神のように感じました。
 片や学校にも通っていて、魚の燻製を猫に与えるほど裕福なエレナ。
 片や日払いの労働者で掃除婦をしている貧しいレイラ。
 育った環境が違う二人が仲良くなっていく姿は美しかったです。
 それでも二人の差は埋められないのは、辛かったです。
 無知による失敗続きの人生を送ってきたレイラ。
>私はきっと、何かお返しがしたいんだ。
 エレナが世界の中心になってしまったレイラにとって、飛び切りの思いつきだったでしょう。
 純粋に感謝の気持ちだったんだろうと思いました。
 けれども、感謝は受け止めてもらえず、突き返された。
 レイラの行動は褒められたものではなかったでしょう。
 それでもエレナに喜んでもらいたい一心で突き動かされたのでしょう。
 結果は、残念なことに終わります。
>案外、平和に朝を迎えることが出来る。
 レイラは生きていくことすら放棄してしまいます。
 切ないシーンです。
 ラストシーンは感動しました!
 二人の間に真実の友情が生まれたんだと思いました。
 これからまた掃除婦としてエレナの家に訪問する毎日がやってくるのでしょう。
 エレナは朝、そのものですね。


G04 蝋燭
 蜜月なカップルが孤島伝説に惹かれてやってきた。
 けれども波に驚いた少女のため、ボートが転覆して小屋に緊急避難することになった。
>これから起こるロマンに心弾ませている、少女は子供のような笑みを男に見せていた。
 伏線ですね。
 まさか、甘いムードを求めて読み進めていたらそんな展開になるとは思いませんでした。
 男は少女に優しい。歳の差もあって甘やかしている面が強調されます。
>蝋燭の灯りが揺れる。壁に映る二人の影も踊っているように見える。
 “蝋燭”がキーワードですね。
 冒頭にも出てきましたが、蝋燭は重要な役割を果たしています。
 効果的に使われていて、上手いなぁと思いました。
 姉の話から、物語が変容していきます。
 訥々と語る少女に狂気を覚えました。
 一年前に亡くなった姉のために、全てを用意したのかと思うと涙を禁じえません。
 もっと幸福になる道があったと思うのですよ。
 痛恨の言葉があったら、世界は変ったんだと思います。
 蜜月の恋人同士で、小旅行に来た。
 そんな甘々のお話になっていたと思います。
>「僕の所為じゃない」
 男のこの言葉は無責任ですね。
 以前の恋人の死に向けた言葉も冷たかったです。
 それが男の本質なのかもしれません。
 だから、この結果は自業自得なのでしょう。
 少女には幸せな結果だったのでしょうか。


G05 金糸雀に雨
>町を行く女どもの懸案事項は今晩のスープをどれほどまでなら薄めてよいかということだけ。
 行楽に金を使わない、というのをこう表現するとは素晴らしいです!
 ケチだということを表すのに、誌的な響きを持って書ききっていますね!
 上手いなぁと思いました。
>目は意外なほど濁りのない水色をしている。
 よだかの印象はこの目ですね。
 カツカツの生活の中で、それでも未来を信じている真っ直ぐとした目だと思います。
 よだかと金糸雀の交流が温かかったです。
 羽におずおずと触れるシーンはドキッとしました。
 まるで初恋のように甘酸っぱいです。
>「あなたの背なかに、あるのが。いちばん、きれい。だと思う」
 殺し文句だと思います!
 純粋だから強い言葉ですね!
 やくたたずの羽ではなくなってしまいましたね。
 そして、サーカス団がグリの町を離れることになりました。
>「いっしょに行きたいだなんて、言っちゃだめよ」
 よだかはついて行きたかったでしょう。
 それをダメだと先に言われてしまって悲しかったでしょう。
 金糸雀と別れたくないと思っていたでしょう。
 それでも、よだかは男の子でした。
>「迎えにいく。かなりやの、こと」
 プロポーズですよね!
 ほんの数日滞在しただけで、どこへ向かうか分からないサーカス団の一員を迎えにいくなんて。
 それだけよだかにとって金糸雀は特別な存在になっていたんですね。
 再会できる可能性は本当に少ないですが、それでも約束する。
 最後の一文は切なかったです。


G06 ファレと変な魔法使い
 ファレが可愛いーー!!
 くるくると働き者で、グレン様を慕っているところが良いですね!
 何かにつけてグレン様、グレン様で。
>朝の卵料理だけはワタクシがお作りしますの。
 ちょっと得意げになっているのがまたキュートです!
 スクランブルエッグを作る描写はとても美味しそうでした!
 ライマ様の家はヒドイことになっていますね。
 荒れ放題な家の表現が細かくて、こんな家住みたくなーい! とファレが言い出さないのが不思議なくらいです。
 グレン様に頼まれたからですね。
 そうじゃなければ、最初は物置に寝かせようとした男性に着火したくなりますよね。
 ファレはその後も掃除に洗濯、食事の世話を続け、ライマ様が一人でも暮らしていけるように教える日々が続きます。
 そして、ライマ様が独りぼっちになってしまった理由が明らかにされます。
 夢魔の呪いで悪夢を見るようになってしまった。
 それも伝染性があって、使用人たちが次々辞めていってしまった。
 そのためライマ様の家が荒れ放題になってしまった。
>これが悪夢? 効かないわ。だって、そんな失敗よりグレン様と一緒にいる方が大事なんですもの。
 ファレの慕いっぷりがスゴイですね!
 ここまで来るとグレン様がいなくなってしまったら、どうなっちゃうんでしょうか。と心配です。
 ラストシーンは強烈ですね。
 夢魔の呪いが解けたライマ様の姿がこうも麗しくなるなんて。
 ファレじゃなくても揺らぎますよね。
 それでも、最後まで“グレン様”のファレには脱帽です。
 この世界の魔法使いは口説き上手なのでしょうか。
 ドキドキしました。


G07 TOMOSU
 彼女の貧乏さ加減は同情したくなりました。
 女の子なのに風呂なしトイレ共同の四畳間は厳しい生活です。
 電気が止まって、次はガスと水道か、なんて考えているなんて切実ですね!
 と思ったら、この部分はお芝居なんですね。
 【TOMOSU君Ⅱ】のセールスはまるで某番組をほうふつさせます。
>男は右手には右手首、左手には左手首を持ち、アシスタントの女性もそれぞれ両手に右足先と左足先を持って、にこやかな笑顔を浮かべている。
 これはシュールです。
 俺がここまで耐えたのがスゴイと思います。
 【TOMOSU君Ⅱ】はさらにおまけがついてくるというのです。
 ジャスネットたけだは商売上手です。
>「いったい誰が買うんだよ……」
 脱力しきっていますね。
 私も読んでいてまさかテレビコマーシャルをテーマにしたお話を読むとは思いませんでした。
 突っ込みどころ満載ですね。
 テレビの電源を切って正解だと思います。
 最後の一文に、苦笑を禁じられずにはいられませんでした。


G08 恋愛未満コンロ
>以来ハムスターをバレンタイン司教と呼んでいる。
 まさか伏線だとは思いませんでした。
 島村くんのキャラクターの肉づけをしながら、後々の展開に関係してくるなんて深いです。
>お前に変なもん食わしちゃったの、俺です。
 心の中では謝っていますが、あんまり悪いと思っていないでしょう!
 ハムスター好きには許せません。
 バーに食わせたものはこの段階では出てこないのですが、後程出てくるのが憎いです!
 展開が上手ですよね。
 ちょっとした謎が、次々に明らかにされていく。
 するすると読み進められる文体で、素晴らしいと思いました。
>『あんた別に、好きなひといるでしょ』
 この一言でいつも破局する理由がわかります。
 女性ってこういう勘が鋭いんですよね。
 自分のことを本気で想ってくれないということが分かったら、「はい、さようなら」です。
 誰だって一番でいたいじゃないですか。
 その点島村くんは一途ですよね。
>「駅前のケーキ屋でクリスマスケーキを売ってたんです」
 ここに突っ込みを入れたい。
 彼女がいる男性が何故、クリスマスにバイトしているんですか!
 他にやることがあるでしょうが!
 こうなったのも自業自得です!
>だから、俺のコンロは一生つかない。
 切ないですね。
 タイトルの理由が最後に明かされる。
 それにしても、本当に最後まで緻密に組み立てられている作品だと思いました。


G09 火球少女
 女子なのに男子サッカー部に入部する青山さんはガッツがありますね。
 練習がきついことで有名なサッカー部に入部した女子は彼女が初めてなんではないでしょうか。
>「俺に、アシストしろってか」と思ったが、返事はしなかった。
 ライバル意識たっぷりの正也くんですね。
 青山さんに指示だしされたようで面白くないようですね。
>2年生は、青山を潰しにかかった。だが、青山は義経みたいにひらりひらりとかわして、ドリブルで持ち上がる。マークされなくなった正也とのワン・ツーは、面白いように決まる。
 青山さんのドリブルは弁慶と闘った牛若丸のようだったのですね。
 力強さよりも美しさを感じました。
 男子の中で一人の女の子がひらりひらりと舞を舞うような美しさがありました。
 正也くんとのコンビネーションも上手くいき、爽快でしょうね!
>端役の体験がない正也にとっては、屈辱の試合に感じられた。
 初めての挫折に教室の隅で落ち込んでいる正也くんは若いですね!
 青山さんとの会話で持ち直していくところが良かったです。
 挫折を味あわせてくれた相手に、慰められてどうするんですか。という気もしますが。
 二人は親友になったんですね。
 何でも言い合える親友は青春時代、得難いものですよね。
 それが青山さんが髪を切ったことによって、破綻しはじめる。
 せっかくの親友が出来たのに、
>どう見ても、女の子に見える。正也は、声もかけられなかった。
 では、青山さんが気の毒です。
 ラストシーンで練習に打ち込む正也くんの苛立ちが解消されますように。と思わず祈りたくなりました。


G10 マイノリティ・レポート
 ブログの記事を読んでいるような感覚になりました。
 添付されている写真を見て見たくなりました。
 ガンチェ族の火運びを日本人記者の視線で語られていて、そこには生活があるのが見えました。
 生きていくということが克明に記されている気がしました。
 暮らしにはヤクとディが必需品なのですね。
 ヤクのお茶を飲んでみたくなりました。
 お茶を淹れるシーンは、いかにも少数民族の暮らしにお邪魔したような書きっぷりで良かったです。
>村人たちからツァンパとモモの昼食をふるまわれる。
 素朴な味ながら美味しいんでしょうね。
 おそらくごちそうなんでしょうね。
 神火を届ける一行への。
>昨秋は別の村へ向かうルートで難所越えの途中、命を落とす者が出た。
 それでも続けられる伝統行事なんですね。
 記者の一言一言が重いです。
>ヤマが、今はこれが鳥のかわりさと傍らにあったひと抱えもある無線機の端を叩く。
 時代の渦に放り込まれているんですね。
 近代化は留まることをしらない。
 急速に便利になっていくかわりに失われていくものがありますよね。
 記者が答えられなかったのも分かります。
 伝統が続けばいいと思いながら、読み終わりました。


G11 イレーネ
 拷問にかけられている主人公が解放されるシーンから始まります。
 どうして拷問にかけられていたのか。
 どうして解放されたのか。
 謎を残しながら、話が進んでいきます。
>誰の手も届かない遠くへ落ち延びてくれ、イレーネ。
 タイトルとなった人物の名前が出てきました。
 僕とはどんな関係だったのか、伏せられたまま話は駆け足で進んでいきます。
>君と巡り合えたことを神に感謝するよ。
 死の間際に出会いを感謝するシーンは、なんて生きることに放棄している主人公なんだろうと思いました。
 そこまで虜にしたイレーネの存在が気になりました。
 出会いは十数年前、子供時代。
 ほんのひととき出会って、会話をしただけ。
>遠い昔に動きを止めた時計が再び時を刻み始めたような、そんな感覚だった。
 二度目の出会いは二人の運命を決めてしまったようです。
 そして、出会いは三度訪れます。
>「あなたとまた会えて良かったわ」
 イレーネは純粋にお礼を言いたかっただけかもしれません。
 けれど二人の間には身分の差がありました。
 城館に住むお嬢様と石工は、寄り添ってはいけないのです。
 主人公・ハンスは運命に流されていきます。
 劫火の中、瞼を閉じ、自分の死を待っています。
 イレーネに感謝しながら。
 切ないですね。
 淡い初恋がキレイに残っているのがより余韻を残して物語は終わります。
 もっと幸せになって欲しかったです。