並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

「覆面作家企画2」Hブロック感想

 好き勝手なことを言っている感想です。
 滑り込みも良いところですね(汗)
 読み違い、勘違い、深読みなどしちゃっているだろうし、好みのジャンルには甘口、苦手なジャンルには辛口になる人間の中辛ぐらいの感想です。
 自分の力量は完全に棚に上げてます
 辛口感想が苦手な方は注意してください。
 ネタばれアリなので、未読の方もお気をつけてください。
 →http://fukumennkikaku.blog75.fc2.com/



H-01  星摘み

 一人称現代ものFT。
 姪と甥に頼まれて雪だるま作りを手伝う主人公。
 動く雪だるまをねだられて主人公は、自分の幼いころを思い出す。
 雪だるまが動いた……奇跡の起きたあの日のことを。

 星に願いをかけるのを分担する、というのが良いですね。
 子どもが思いつきそうな感じがして、説得力がありました。
 「雪だるま」との組み合わせも新鮮でした。
 雪国にきた南国育ちの小さい双子。
 主人公自身も双子。
 夫婦。夫婦になって子どもに恵まれた双子の片割れ。これから夫婦になる主人公。
 という感じで対比、強調が効いていて素敵でした。
 難をいえば回想への切り替えシーン。
 どうにも上手く入り込めませんでした。一行空いていたりすればもっと世界に入り込みやすかったかな。と個人的には思いました。
 あと気恥ずかしくなっちゃって、私のせいだとは思うんですが……どうにも照れてしまいますね。

H-02  流るる星の行方

 本格派FT。
 国境近くの森に住む謎めく二人。
 親子とも思えないし、兄妹とも考えられない。
 剣の稽古と多岐にわたる勉学に励む少女・アシェラ。

 筋書きといい。かなり本格的なFTで王道の展開。
 主人公が少女なのが、個性的。こういう話だと、少年が主人公のことが多いかなぁ。
 これだけの世界観をこの枚数に畳むのは難しかったんじゃないかなぁ。と思いました。
 主人公の年齢とヨーマとの年齢が気になっちゃって。
 二人の関係性は後々に明かされるのですが、後だしになっちゃっているような。
 色恋を抜きにしても、主従的なシーンがあっても良かったかなぁ。二人は寝食を共にしているのですから、もうちょっと絆っぽいものが書き込まれるとより素敵になったんじゃないかなぁ、って。私にはつながりが希薄に見えてしまって。
 王との対峙のシーンももう少し枚数があっても良かったかなぁ。なんて。
 悲劇的な結末ですが割りとあっさりと書かれていて、残念だなぁ。と。
 もっと枚数があったら、もっと面白い作品になったと思います。

H-03  黒衣の天使と夜の闇

 一人称現代ものFT。
 マンションの屋上に『気がついたら』立っていた「私」。
 柵に座る少年が謎かけのように話しかけてきた。
 現実なのか夢なのか、その境目はあやふやで、とても奇妙。

 一瞬、ホラー? と思ってしまった、少し不思議な話。
 中盤、少年に殺されちゃうのかなぁ「私」と思っていました。
 ドキドキバクバクして、背筋が凍りつくような感覚で読み進めていきました。
 ひたひたと迫ってくるという感じです。
 がタイトルに種明かしがありました(汗)
 「私」の年齢と性別が見えなくって、ちょっと話が進んでからわかるので、個人的には引っかかりを覚えたぐらいでしょうか。
 一人称の話を読み慣れていないせいだと思うので、作者さまが悪いわけではないのですが……。
 勢いがあって、しかも全部の謎が解けなくって、ミステリアスな作風でした。

H-04  インプリンティング

 現代もの。
 物見台で星を見上げる少年・一泰に、今日に限って差し入れを持っていく少女・加穂。
 気持ちに素直になれない二人は、答えを相手に明かさない。
 星を見上げる理由も、差し入れをもってきた理由も。

 一人称寄りの三人称か、一人称が悩むところ。
 地の文で「私」も「加穂」も出てこないのではっきりしない。
 そのせいか、ちょっと読みづらかったんですが会話のテンポが良くって最後まで読めてしまいました。
 会話運びが自然で、録音でもしているのかなぁと思ってしまうぐらい、生き生きしていました。
 小説の会話は不自然になりがちなので、スゴイことだと思いました。
 加穂ちゃんが、一泰くんの星を探す理由がわかった日が読みたいなぁ! と思いました。
 応援したくなるような恋路ですね!

H-05  吸血鬼、1280円。

 一人称現代ものFT。
 帰路を急ぐ「あたし」の前に現れたのは吸血鬼を名乗る怪しい男だった。
 しかも執事つき!
 そんな吸血鬼の大事な『用』とは……。

 タイトルどおりのノリとお約束展開がふんだんに盛り込まれた、面白いドタバタコメディ。
 シャリドの居丈高な言葉を執事がいちいち解説するのが笑えた!
 しかも「星」の使い方が意外で、それもお上手だなぁと思いました。
 本当に面白くって、もうしばらくこのドタバタの話を読んでみたいと思いました。
 吸血鬼もヘルシー志向とは……面白すぎます!

H-06  星は虚ろの月を抱く

 西洋調のホラー(?)
 教会で生まれ育ったシスター・エトワールの友人は、太陽のように美しいソレイユ。
 大切な友人がとうとう花嫁になる日がやってくるという。
 次は自分の番だ、と奥ゆかしいシスターは、思い人の姿を重ねながら強く願っていた。

 こちらの一方的な理由により、世界に入り込めませんでした。
 作者さまはどこも悪くないだけに本当に申し訳ないです。
 狂気的な愛は嫌いじゃないし、精神系もダメではないのですが……サロメ程度なら、むしろ好みのシチュエーションなんですが……食べるシーンがどうしても苦手で、結末が気になって最後まで読んだのは読んだのですが、読み返したくないというのが正直なところです。
 表現が素晴らしかったのでより生々しさが……。
 注意書きが欲しかったなぁ、と思いました。最初から覚悟していれば、もうちょっと読めたとは思うんです。

H-07  教授(プロフェッサー)が目覚めない

 一人称現代ものFT。
 現代に生きる魔法使い「教授」が眠っている。
 その助手の「僕」は、教授が眠る前に残した言葉「ホシだ」を手がかかりに、謎を解こうとする。
 が、教授の部屋は危ないものがばかり。
 「僕」が謎解きの途中に猫の鳴き声がして――。

 完全なコメディ。
 結末も面白かったです! 最後の一言が効いていました!!
 いや、そう来るか。って感じで、諧謔が富んでいます。
 教授が「読者の大半〜」のくだりから「アレ?」って思っていたんですが、そう来ますか。
 確かに「星が目的のイベントではなく」「○○(最後の一文)」も大切ですよね。
 教授のユーモアが素敵ですね。
 「ペット禁止マンションだから」というセリフがツボに来ました!

H-08  星の実

 一人称異世界FT。
 「星の実」の伝承が残る小さな村で畑を耕す男・ティエリー。
 苦しかった二年前の傷跡が村から消えようとしていた頃のこと。
 仕事を求めて外へ出ていった幼なじみのセエラが村にやってきた――。

 「星の実」の伝説が上手く使われていて、素敵でした!
 私も「星の実」を求めて木の実を捜しに行きたいです!
 農業も詳しく、わかりやすい説明があったので、自分までその村にいる気分になりました。
 大変だった二年前がありありと想像ができて、ファンタジーだとは思えないリアリティがありました。
 結末も余韻を残しながら静かに終わったので、こういうのもアリかなぁ。と。

H-09  ホシのヌシ釣り

 SF。
 ピッツァオランゲ艦の船員たちの48時間の地球観光。
 『銀河横断ガイド』を片手に船員たちは、次々に小さくも可笑しいトラブルを起こしていく。
 それを眺めるのはオペレーターのワンコ。
 実はその行動は――。

 笑いあり、しんみりありのSFで、全体的に面白かったです。
 「キリギリルー」という個性的な単語に、うっかり夢中になってしまいました。
 『銀河横断ガイド』を読んでみたいです。どんなことが書いてあるのか気になりましたv
 ミヤマ観測士のオチも、まさかそんなことだとは思わなかったので、面白かったです!

H-10  ツインズ

 一人称現代もの。
 「私」と相沢鈴は占星学的双子。
 運命的結ばれた二人の絆は、本物の双子よりも強固だった。
 同じような道をたどり、必ず傍らにあった存在。
 18年間、ずっと一緒にいた。

 狂気にも近い思い込みがこの年齢の少女たちらしいですね。
 何から何まで同じじゃないと気がすまない。
 まさに「死ぬ『まで』一緒」の二人の書きっぷりが凄かったです。
 鈴よりも主人公の倫のほうが「ツイン」であることに囚われているんじゃないか……そんな静かな恐怖がじんわりと伝わってきて、良かったです。
 リアリティがあるというか、十代の女の子が考えそうなことで綴られていくのは筆力があるなぁ、と感心しました。

H-11  あの星が流れたら

 現代FT。
 星座を見つけることが難しい現代の空。昔から変わらずある星。
 会社が倒産して、帰る家すら失い、何もかも失った男・壮太。
 無性に海が見たくなって壮太は車を走らせた。
 「あの星が流れたら……」と見上げた空にあった星は――。

 確かにあの星は流れませんね。
 目からウロコが落ちました。
 いつまでも待つ娘さんには悪いのですが、壮太に帰る家があって良かったです。
 何もかも失った主人公と海と着物の女性の取り合わせなので、壮太が海に飛び込んだらどうしようと冷や冷やしていました(汗)
 彩さんは良い奥さんだなぁ、と思いました。
 「不思議と晴れ晴れ」とした顔が良かったです。