並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

「覆面作家企画2」Aブロックの感想

 趣向を変えて、Aブロックです!
 誰も待っていないような気もするんですが、気にせずに行きましょう♪
 恒例ですが、好き勝手な感想です。
 中辛程度の感想で、ネタバレを含みます。



A-01  星降る夜に

 一人称現代FT

 雪が降っている夜。傘も差さずに小さい女の子が立っていた。
 「この子を他の人に渡さないで」
 と小さな少女は訴える。

 猫を拾って欲しいと訴えている少女が可憐で、痛ましいほどの姿で、雪がちらつく情景と折り重なって、切なさが……! 名前も良くわからないけど、幸せになって欲しいと少女に対して祈ってしまいました。話の途中から、この子は……なんだろうな、と思っていましたが。
 私の心の動きも痛いくらい辛くって、決心するまで彼女だって苦しかっただろう。そんなふうに考えてしまえるほど、世界に入り込めました。
 今度こそ、みんな幸せになって欲しいです。ダイスケくんも♪

A-02  星々の中夜

 一人称現代FT?

 忙しい社会人「俺」は寝る時間も、起きる時間も不規則だ。
 そんな中、ピッタリと時刻を守る習慣が一つあった。
 午前零時十一分。
 長い夜の始まりだ――。

 現実感のある始まりからどんどんかけ離れていき、謎が謎を呼び続ける作品でした。読みやすくって、この後は、この後は……と思っているうちに、主人公の「俺」が平凡な会社員じゃないことがわかってきて……結局、謎は大きくなりました(汗)
 読みやすいのに、わからなかった。
 という矛盾のある作品でした。
 長い長編の一部をポンと切り出した感じがして、予告編だとしたらつかみは十分すぎるインパクトのある作品です。

A-03  ここで私は生きていく

 SF。

 近未来。日本のカリキュラムでも「宇宙学」なる授業が熱心に教えられる時代。
 「私」は「宇宙狂」としか言い表しようがない幼なじみの話に辟易する。
 誰もが宇宙を目指す流れの中、「私」は困惑する。

 ありえそうな未来をリアルに書かれてあって、感心してしまいました。こういった作品につき物の宇宙史も理解しやすい語り口で、さらっと流されていて素晴らしい、と思いました!
 「私」と夏月が話している様子が目に浮かびました。いつもこんな感じなんだろうな、って。
 どうして「宇宙へ」向かう流れに主人公が困惑しているのか、後半で鮮やかに解決されて、そこも素敵でした。
 埃を被った地球儀を回すシーンは切なくって、美しい情景だと思いました!

A-04  逆さまの星たちとお母様の夢

 FT?

 私こと「アルシア」には大切な思い出がある。
 大好きなお母さまに本を読んでもらったこと。
 自分に付けられた名前の意味。

 可愛らしいお話です!
 思わずお父様とお母様のラブロマン話をプリーズ! と言いたくなるぐらい、気になってしまいました。さぞや、エピソードがありそうなご夫妻だと……。
 可愛らしいだけではとどまらず「アルシア」という言葉すらなくなってしまった不条理さが突きつけられて、思い出とあいまって切ないラストシーンになっていました。
 主人公の置かれている状況も、年齢も、まったく見えてこないにも関わらず、するすると読めてしまって、これが腕の差なのだろう、と感心してしまいました。

A-05  SPEED STAR

 現代もの

 ダニエル・イングラムは勝たなければならない相手がいた。
 サーキットのスター・エイジ。
 彼の走りは王者の名にふさわしい。

 読み慣れない業界もの。けっこうキツかったです。……たぶんF1(?)。F1やF3の区分がさっぱりわからない人間には、かなり辛い単語がゴロゴロしていましたが、読みやすかったです。
 一つの星に向かってがむしゃらに頑張ってきたダンの気持ちに好感が持てました。
 いかにも「青春」という感じがして、素敵でした。

A-06  涼野伊織那(すずしのいおな)と障子の穴

 現代FT。

 天才と冠してもおかしくない涼野伊織那。
 何故か、その幼なじみと言えなくもない西城明智。
 のどかな昼下がり……。

 登場人物の名前が変わっていて、ビックリしました。話を読み進めると涼野伊織那の非凡な頭脳に驚きました。
 SFでよくあるファーストコンタクトものなのですが、新鮮でした。まさか、あそこですんなり帰ってくださるとは思ってもみなかったんですが、良いところがあるんでしょうか、異星人さんは。それとも、涼野伊織那ってそんな危険人物なのでしょうか。後者だとしたら、西城明智のポジティブさが素敵です!
 あの涼野伊織那に障子の張替えを依頼するなんて。

A-07  『ゆめいろこんぺいとう』

 現代FT。

 夢が叶う直前のことだった。手を伸ばせば届くほど、それは近くになった。
 けれども、あの運命の瞬間、夢は青い星になってしまった。

 「夢の墓場」の設定が素敵でした! こんぺいとうの使い方もさりげなくって、夢のような世界の描写が素晴らしくって、何ともいえない空間を見事に再現していて、カッコ良かったです。
 白い砂の上に、青いこんぺいとうが一粒、入っているというのが綺麗で、夢を叶えるという重さを視覚化したようで、素晴らしかったです!
 舞台があまりに素敵すぎるので、連作短編という形で、黒いこんぺいとうの話も読んでみたいな、と思いました。

A-08  孤島のI and(アイアンド)

 SF。

 近未来。火星に移住するために、先進国はなりふりを構わなくなった。贅沢を排除し、一人でも多くの移住を達成するために、国の有様を変えた。
 伊藤陽充は順調な出世をしている、けれど――。

 妙にリアリティのある設定で、ちょっとこの国の未来が怖くなりました。社会主義に傾倒していくさまが、説得力があって。
 エリートである伊藤の冷めた視線が程よいですね。現実と主人公の距離感があるせいか、世界観がわかりやすくって、素晴らしいです。シニカルでカッコいいと思いました!
 またキーシーンが素敵でした! 暗い夜道で歌を口ずさむ姿が何ともいえなくって、それから話が展開していくのが良いです。
 個人の力ではどうしようもできない中で、それでも人間はそれなりに生きていくのだ、と。

A-09  流星と勇者

 現代FT?

 柏木博子は一度生き返ってから、謎の組織につきまとわれる日々を送っていた。
 どんな大きな怪我であっても、彼女は死ぬことができない。
 平凡な日常を失った彼女が望んだものとは――。

 謎の組織。願いをかなえてくれた流れ星は極悪人。唯一(?)の家族であった母にすら裏切られた。と、踏んだり蹴ったりのヒロインなんですが、たくましい。
 誰よりも「生きる」ことに執着した、というのは誇張表現ではないと思いました。
 が、読めば読むほど謎が湧き上がって、続きは? と訊きたくなるような結末でした。枚数制限に阻まれちゃったんでしょうか。だとしたら残念です。

A-10  三つ星

 和風FT。

 ここから動くつもりはない、と強情に彼女は言い張る。
 灰で空は覆われ、戦で大地は汚されていく。
 何度、誘ってみても彼女の言葉は同じ。

 素敵なお話でした!
 こういう不思議系というか、神様系は大好きなので、堪能しました〜。
 手弱女って感じなのに、凛とした彼女が素敵です。飄々とした雰囲気の彼も素敵で、どこか諦めてしまったような、それでも期待している口ぶりがカッコ良かったです!
 土地が荒廃していく描写が丁寧で深く、悲惨であるから、彼女の清らかさが際立って、美しかったです。
 最後の段落で、思わずほろり。強情な彼女が、本当に素敵でした!

A-11  エトワール

 時代小説。

 かつて悪行の限りを尽くした男がいた。その彼が“英雄”と祭り上げられていてる時代。
 その街に美貌の青年が訪れた。謎めく額飾りの下には――。

 これで短編なのか! とうなるほどに重厚な話でした。FTと呼ぶよりも時代小説といったほうが良いような作品でした。歴史の裏側を見せられているような感じがして、深かったです。
 さまざまな要因が積み重なって、たった一つの「事実」につながっていく、としか言いようがなかったです。ドンで返しがあって驚きました。
 素晴らしいとしか言いようがない作品でした。

A-12  ミルフィオリの夜に

 ルイスは度し難い本の虫。人の百倍で本を読む。
 同い年の子たちとは話が合わないから、自然と疎遠になった。
 そんなルイスの前に都会からやってきた少年エルマーは――。

 さらっと書かれているので、読み流しちゃいそうですが、エルマーのお母さんは怖い人ですね……(汗)
 ルイスの内向性は、とっても現実味があって、その心情も「ありそう」と感じるほどに、生き生きとしていました。こんな思考回路をしている子どもがいそうな気がしました。両親とのやりとりも「いかにも」という感じがしました。
 エルマーと出会い、変化していくルイスが素敵でした!
 少年の友情って感じですね。