並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

覆面作家企画4 Eブロック感想。

 ネタばれに考慮しているつもりですが、考慮し切れていません。
 未読の方は注意。


 推理のきっかけメモつき*1です。
 難しい漢字の基準は「自分」です。特徴的な熟語、言葉選び、変換をしている場合も、難しい漢字に入れていることがあります。

タイトル考

 タイトルという意味ではイレギュラー揃いのEブロックです。


 今回の覆面作家企画のテーマは「道」。
 そのためタイトルに「道」が入っている作品は26作品。
 平均すれば1ブロック当たり3作品が、タイトルに使われている。という、単純な計算なんですが、ブロック毎に大きく偏っています。5作品も含むブロックが2つ*2あるのです。
 Eブロックは平均値を下回りE10、E11の2作品だけで、最少ブロックなります。


 全84作品中、タイトルに「世界」という単語を使用しているのはE04、E12のみで、2作品とも注意マークだったります。


 タイトルにアラビア数字を使用している作品は全84作品の中で、2作品だけです。E01、E04と、これまたEブロックにしかありません。


 全84作品の中で、タイトルに植物、花という漢字を使用している作品は5作品あります。純粋に「花」を指す作品は3作品しかありません。E02、E05、E07とEブロックだけです。


 最も文字数の少ないタイトルは、2文字です。全84作品中、3作品が該当。
 そのうちの1作品がE07。


 そんなわけで、Eブロックはタイトルからして異質な作品揃い! と、いう結論です。

印象

 E08以外、安心して読めないブロックです。
 そのE08だって、なかなかの仕掛け人だと思います。


 一人称が9作品。
 「自分」語りが大好きなEブロックです。
 女性4、男性5。


 恋愛要素のある作品は7作品。
 でも、ストレートな恋愛物は少ないというねじれ具合。


 FT要素のある作品は全部で10作品。かなりFTに偏っています*3
 その内、SFが5作品*4
 スペオペもあれば、サイバーパンクもあるといった感じ。


 注意マークのある作品が4作品と、最多ブロックです。
 注意マークのない作品でも健全だと大きく言えない作品が多かったような気がします。
 年齢制限の難しさを体現したブロックのような気がします。 

注意書きがないけれど、念のため*5

 E01 障害者、殺人
 E02 恋愛
 E03 軍人、刑罰
 E05 流血
 E06 器物損壊、R‐15
 E11 戦争、幻覚剤




E01  コロンナ33遅き午餐 (SF 三人称)

 佩いた、開削、蹄、隻眼、有難え、壜など難しい漢字を使用。
 …を一字分で使用。

 
 古き良き時代のSFを思い起こさせる骨組みのSFですね!
 最初は西洋風の異世界FTだと思っていたんですが、しっかりとSFしていました。
 原稿用紙20枚とは思えない密度で、凝縮されていて、不足がないのがスゴイと思いました!
 緻密な世界観と魅力的なキャラクター。
 師弟とくくるにはあいまいで微妙な関係の二人が良いですね。
>「先生、試してごらんになりますか」
 ドキッとしました。鮮やかな描写で特に印象的でした。

E02  サクラ散る (現代FT 一人称)

 轢く、焦ってる、愚痴、挨拶など難しい漢字を使用。
 「止める」表記ゆれ。フェイクの可能性、あり。
 漢数字と全角アラビア数字を使用。


 あ、やっぱり? そんな予感はしていたんですけど、していたんですけど、……切ないというよりは、やるせないって感じです。
 女性らしい柔らかで瑞々しい表現でつづられる日々は、どこか哀しいですね。
 ひとつひとつのエピソードを丁寧に語られていくせいか、こういった終わりを迎えるのに読後感は素敵でした。
 幸せだったんだろうな、未練は溶けていったんだろうな、と想像できます。

E03  Down Your Way (SF 三人称)

 揃って、尤も、覆せなかった、浸かって、嗅ぎ回って、嗅ぎ、判ってるなど難しい漢字を使用。


 骨太のSFですね!
 映画のワンシーンみたいでカッコイイです! エンドロールが浮かんでくるようです。
 出だしの情景が渋くって好きです。
 雨が滅多に降らないという世界で、雨が降る、というのが良いんですよね!
 作中で、雨がやむって言うのも、また良いんです! 雨を効果的に使っているなぁ、と思いました。
 練られた設定の中でも、《首輪つき》の設定が何ともいえない。こういう刑罰を考え出した世界がスゴイです。
 レージとシュレンジの会話が生き生きとして、話にグッと引き込まれました。

E04  地球全周1/40000000と少しの世界 注 (現代もの 一人称)

 「※」場転記号。
 点けっぱなし、独り、逸らす、多寡、剃刀、飢餓、疫病など難しい漢字を使用。
 蛍光灯、水たまりなどの擬人化的表現。
 はじまる、すこし、くるまで、とまる、たしょうを開く。


 スゴイ! スゴイ!! スゴイ!!
 注意マークがついていたから
>次に目を開けたときには、眠気と重たい体はどこかへ行ってしまっていた。
 という一文から疑っていたんですが、そんなオチだったなんて!!
>スカートのプリーツはまだ綺麗なままで、それがあたしを憂鬱にさせる。
 これがピリッと効いていますね!
>――そうだったらいいのに。
 が、徐々に怖くなってきて、最後まで読んで、タイトルを見て、納得。
 素晴らしい、としか言えない設定と展開でした!
 表現ひとつひとつがハッとしました。そんな言い回しがあるのか! と。
 「空」「星」「花」と今までの覆面作家企画のテーマが逆順で出てくるのが、素敵でした。

E05  夏椿の咲く庭で (和風FT 一人称)

 不躾、刷いた、鉛礫、別嬪、苔桃、攫われて、誑かしてなど難しい漢字を使用。
 三点リーダを一文字で使う。


 時代ものというよりは、仏教説話に出てきそうな良いお話かな?
 と、思っていたら「因果応報」なオチが出てきて、笑ってしまいました!
 つまりお坊さまが賊に襲われない理由って……!!
 読み返してみると、お坊さまの話が出てきたところから「あれ?」って思うような伏線がきちんと張ってあった! 最後までコロっと騙されてしまいました。
 種明かしも上手で、情報の出し方が巧みだなぁ、と思いました。
 「わたし」の語り口が素朴で良いですねー。こういう調子、好きです。
 情景描写、特に冒頭の椿の説明が美しくって、素敵でした!!

E06  ただいまセルフィ (SF 一人称)

 緩んでいた、閑散、零、耽っている、模倣、逐次、窮屈など難しい漢字を使用。


 「心理学」の話ですね。がっつりと「心理学」だったので、ビックリしましたー。
 14歳っていう年齢の心理がリアルすぎるほど、リアルに描かれていて。この激しさと繊細さが、14歳なんですね。
 クールな設定と柔らかで傷つきやすい十代の少女らしい文体のギャップがスゴイと思いました。
 「自己嫌悪」というのは過去の自分を憎むことにつながるんですね。再確認しました。
 「セルフォイド」という小道具がキリッと決まっていてカッコイイです。
 所有が十三歳以上に推奨されている理由も納得です。

E07  花想 (和風FT 一人称)

 顰めた、訊いた、顎、窺う、佇み、煽られる、鬱陶しい、睨んでなど難しい漢字を使用。
 蒼、永い、在ったなど特徴のある漢字変換。


 押しの強い定良が魅力的でした。
 負けん気の強い感じがしていましたが、お願い上手っていうギャップが良いですね!
 真っ直ぐに紫桜に向かっていく姿が、まさに好青年。
 紫桜の正体は序盤から、そうじゃないかなぁって思っていたんですが、予想通りで、その王道展開っぷりが素敵でした!
 ストレートで良いですね!!
 冒頭での紫桜の嘆きは定良によって薄れたんだろうな、と想像できるラストシーンも好みでした。

E08  人生に乾杯! (現代もの 一人称)

 かわいい話ですね!
 「花」「星(太陽)」「空」と、過去のテーマを冒頭でさっくりと消化。
>空にある太陽が花を照らすように、ぼくも彼女に振り向いてもらえたらいいんだけど。
 「ぼく」の心情を描きながらのテーマ消化が素敵です!
 ちょっと遅れて、今回のテーマの「道」が出てくるのが良いですね!
 花束で自分の気持ちを伝えるシーンは王道ですが、それの返事が○○っていうのがユニークで好きです!
 百花が「お花屋さん(このお花屋さんって表現も好きです)」であることを活かしているな! って。
 ほのぼの良いですね!


 一つ気になったのは「ぼく」の年齢や職業。
 定年退職なされたような年齢、第二の人生を元気に歩んでいるご年配な気がして……。
 「タイトル」がそうだから、うん、そんな気がしました。

E09  回収者 注 (SF 一人称)

 全角アラビア数字。
 「……」の使い方が独特。?の前に使用する場合、空白スペースを取らない。
 <>を使用。


 いわゆるサイバーパンクと呼ばれるSFでしょうか。
 グロテスクで、スプラッタな機械化の未来世界! 機械油の臭いがする作品、大好きです!
 <電波チラシ>など、造語が独特でいいですね。設定が面白いです。自分で見る夢も信じられないってところがいいです!
 続きが気になる!!
 <聖母>にたどりつくんですよね!? 
 最終決戦間際のようなところで話が終わっているのがニクイ演出!


 材料に目が留まりました。えーと、これは良いんでしょうか? ナイーブな問題だと思うので、非常に気になりました。

E10  見返り坂道具店 注 (現代FT 三人称)

 「※」場転記号。


 ノゾミちゃんはパワフル。女の細腕と包丁一本で、ですかー。んー、素晴らしい!
 ちょっと不思議で怖い話。
 これ一作でちゃんとまとまっているんですが、シリーズ物として読んでみたい! 面白かったです!
>白雪姫が毒リンゴを食べたのは、馬鹿な王子をひっかけるためなのさ。
 伏線が効いていますね。物語の後半でさらに納得。
 店主もミステリアスで素敵でした。

E11  幸せの道 (異世界FT 一人称)

 章段落に半角数字とピリオドを使用。
 酷く、俯いた、逸らせた、酌んだ、跨がり、彼の人など難しい漢字を使用。


 どうなるんだろうとハラハラしていましたが、タイトルどおりの結末。
 一度は別れた二人も、また巡り会って……幸せになって良かったです!
 ザック隊長がカッコ良すぎる! 傭兵を束ねているだけあって、情に通じている!!
 頑ななセロンも味がありますね! 彼の中途半端さが好きです。こういう性格だから5年間も想い続けていたんだろうなと思ったりしました。

E12  世界ノ果テノソノ向コウ 注 (SF 一人称)

 “”を使用。
 全角アラビア数字を使用。
 「業(ゴウ)」とルビを振る。


 平易な文体とエンタメ展開の(緩急ついた)サイバーパンク(+α)。
>脳-脳(ブレイン-ブレイン)通信
 個性的な言い回しがたくさん出てきて、その世界観が面白かったです。
 中盤に出てくる「バイオメモリー」の設定が好きです! 騒動の元凶であり、ラストシーンに導く重要な小道具でもある。ってとこが良いです!
 ドォルたちの戦いは勢いがあって素敵でした。追っ手から逃げ切れるのか。危機一髪の連続で、ぐいぐいと話に引っ張られました!
 一転して、静かなラストシーン。
 ジャランの記憶が切ない!
 美しい情景でした。

*1:推理はしていません!

*2:CブロックとGブロック

*3:Bブロックには負けますが

*4:まだ未読のブロックがあるので断言できませんが、もしかして最多?

*5:基準は自サイトです