相変わらず自分の実力を棚上げで書いています。
どれもこれも面白かったです。
E01 生きてさえいれば
火を扱う能力者の家系に生まれたのに、炎が出せないあたしは辛いですね。
>あたしはみんなの役に立ちたかったのに、何もできない。
あたしの気持ちが痛いぐらいに伝わってきます。
家族が優しければ優しいほど、何もできない劣等感が募っていきますよね。
その結果の引きこもり。家族との距離も自然と離れていくのに、どこかホッとしているあたし。
>ある日、幸せは突然終わりを告げた。
それでも外に出られないあたしの背を押したくなりました。
この時、外に出られれば運命はちょっと変わったかもしれません。
あたしは引きこもり生活を続けます。
ラストシーンは自業自得の結果なのかもしれませんが、辛いですね。
独りぼっちで震えているあたしの傍には誰もいません。
これからの人生をどうやって歩めばいいのか、あたしには分からないでしょうね。
引きこもった代償なのでしょう。
E02 キドニーパイをひとくち
何とも魅力的なタイトルでしょうか。
タイトルに偽りなく、次々と美味しそうな食べ物が作品の中で並べられていく。
クリスマスという特別な舞台で、踊る食べ物たちと作り手のお話。
タイトルに出てくるように“キドニーパイ”が鍵となって話は進んでいきます。
クルクルと忙しそうに立ち働くメイドたちの姿が目に浮かびました。
リネットがロンドンの屋敷を勧められても、断る理由が分かります。
夜の九時過ぎを勤め人たちは、楽しみにしているんでしょうね。
一夜だけの無礼講。
華やかに飾られた階下のホールに集まって、ダンスを踊る姿が燦然と輝きます。
そこから一歩離れて厨房に戻るリネットは生粋の料理人ですね。
キドニーパイを食べてみたくなりました。
冷えていても美味しいものなんでしょうね。
どの料理も美味しそうに見えて、とてもお腹が空きました(笑)
E03 火を目指して飛んでいけ
>いっけえ入道雲いてる
“いっけえ”の意味が分からず、思わず検索してしまいました。
大きいという意味なのですね。
作品に散りばめられた方言がのんびりとした雰囲気を醸し出していました。
>冷たさが胃の中に池を作る。
素敵な表現ですね。
熱さが吹き飛ぶような言葉選びですね。好みです。
ひーちゃんの気持ちが分かるような気がしました。
同い年の従姉がおっとりしている分、嫉妬してしまう。
ずるしているように見える。
それでも大切な従姉だから口に出して言えない。
もっと優しくできたらいいのに、と等身大の悩みが丁寧に描かれていて良いですね。
言えないそのもどかしさが青春なんだろうな、と思いました。
E04 酔夢春秋
>本当は、わざと区別を付けぬようにしているのだ。
切ないですね。
忘れ去られるのも辛いですが、残される側も辛いですね。
だから同じ名前をつける童子が哀れに見えました。
太郎坊を慕う童子が良いですね。
太郎坊の言葉をかけてもらえた喜びにはしゃぐ童子が可愛かったです。
>人間が供えた食物には彼らの祈りが篭っているから、天狗にとって、山で採れたものにはない格別の滋養がある。
だから団子や餅を好んで食べるんですね。
祈りが篭っている、っていいですね。
ちさとの交流が楽しげで、良かったです。
天狗なのを恐れずに、無垢なちさと明日も明後日も遊ぶことが出来るのはいいですね。
でも、いつの日かちさが童子を追い越してしまう日が来るのが確定しているのが辛いです。
そんな切なさを余韻で残しながら、童子の喜びで物語は閉じてしまいます。
ちさが大人になっても童子を忘れなければ良いなぁと思いました。
E05 グラスキャンドルライト
クリスマスの夜に偶然、巡り会わせた二人。
4年間は長いですよね。
それでも忘れられない辛い想い出に、ひなが可哀そうに思えました。
握手する時、4年間が凝縮されたような時間の流れを感じました。
>今日は全力で頑張るから最後まで聴いていって
タクのこの台詞は心からのものですね。
社交辞令じゃなくて、本当に最後まで聴いていってほしい気持ちが伝わってきました。
ラストソングは4年前のあの日を唄っています。
ギターのソロをぜひ聴いてみたいと思いました。
歌で4年前から現在の心境を種明かしする展開は素敵ですね!
冒頭で
>マフラーに埋もれ、コートの下にロングセーターまで着込んで背を丸めている私
が
>風は冷たいけれど、マフラーも手袋も必要ない。
になったのが良かったです。
ひなの気持ちが前向きになったのが良いですね!
ラストシーンは美しいですね。
最後の一行が良かったです!
E06 ことのはに
謎めく食事処『ことのは』に行ってみたくなりました!
鯖の味噌煮定食が美味しそうでした。
手間暇を考えると、家ではなかなか食べられませんよね。
定食の描写が素晴らしいです!
鯖の味噌煮定食を食べている主人公が羨ましくなりました!
細かいところの言葉が一つ一つ美しく感じました。
>「あんたはもっと言葉に火を通す努力をした方がいいんじゃないかい?」
女将の台詞にドキリっとしました。
主人公も図星を刺されて、逆ギレしてしまいました。
先ほどまで漂っていたほのぼのとした空気が一変したところが上手いなぁと思いました。
奥さんとは無事に和解できたようで良かったです。
久しぶりに奥さんの笑った顔を見たなんて、どれだけ二人はすれ違っていたのでしょうか。
これからはもっと二人の時間を作って欲しいなと思いました。
ラストシーンはどんでん返し。
主人公が迷い込んでしまった系の終わりですね。
またどこかで必要としている人のところで食事処『ことのは』は営業しているのでしょうか。
E07 暁の女神と黄金の悪魔(※注)
齢十七歳にして女神として祭り上げられたラーラセラ皇女。
冒頭のシーンは勇ましいですね。
暁と共に号令をかける姿は凛として勇ましく、美しい光景です。
>だがラーラセラにとって、戦場はいつまでたっても恐ろしいばかりだ。
十七歳の乙女らしい姿が哀れです。
兄皇子が死んでまだ日も浅いのに戦場に立たされるのは恐怖でしかないでしょう。
お飾り物だと解って、覚悟したもののなお恐怖心の方が上回る。
乙女らしい繊細さが伝わってきました。
回想シーンではほのぼのとした温もりが伝わってきました。
大人たちの計略など知らずに、幸福に過ごしていた二人は可愛いですね。
それが敵と味方に別れあって殺し合いを続けている。
二人の間には幼いままの変わらない恋心があるというのに。
それが切ないです。
「セガン平原の戦い」で史書が黙したまま語らなかったエピソードが良かったです。
E08 女神は灰の夢を見る
>その女神様には心臓がない。
ドキッとした一文でした。
心臓の代わりに赤い火が燃えているという設定がスゴイですね。
誌的な表現ではなく、本当に心臓がないのですから。
>「私の心臓は、弟にあげてしまったの」
飲み屋の個室で告げられるにはあまりに重いお話ですね。
S女史の身の上語りは、お酒なしでは聞いてられないぐらいリアリティがないですね。
幼い少女が見続けている夢の中なのでしょうか。
そこに私が紛れ込んでしまったのでしょうか。
そんなことはありません。
私は私として存在しているのですから、S女史の妄想なのでしょう。
秘密を知ってしまった私ですが、罰は下らなくて良かったですね。
これからも続く日常にやがて埋没していくのか。
それともこれがキッカケでS女史との仲が深まっていくのか。
赤い火が燃え続けているのが見える間は、その白い胸から目が逸らせませんね。
E09 The Phantom Circus, Fire Funeral
死期が近い老人の元に届いた封書。
謎めく少年に誘われて夢の中のサーカスに案内されるディック。
現実味のない不安定な世界観が広がっている次のシーンでは現実が待っています。
動物園で火事が起こります。
サーカスの話をしていたのに唐突に火災現場に連れて来られます。
>「動物たちを逃がしたかった」
本当に幼い動機ですね。
それに対する代償は大火事。
相棒のアーロンは愛する妻のために現場に飛びこんでいく。
それを追うディックの焦りが伝わってきました。
この後、どうなるんだろうと思っていると、サーカスの話に切り替わります。
サーカス団の一員になりたかったとここで情報を得られます。
そして、タイトルコール。
ディックの後悔を表しているかのような展開ですね。
これがショーならどれだけ良いでしょう。
死の間際に見た夢は、あまりに残酷だと思いました。
ラストシーンは夢が叶ったと言ってもいいのでしょうか。
E10 朱樂院家の焼失
瞳子の不思議な魅力に翻弄されていきました。
何故俯いているのか、何故双子の姉とは正反対なのか。
美醜だけで判断されるなんて、朱樂院家は歪んでいますね。
聡明な瞳子は静かに運命を受け入れていて、それが切ないです。
>彼女の唇は、微かに微笑んでいる。
ホッとしました。
孤独の中、生きる少女が理弌によって本来の明るさを取り戻したように見えました。
愛情に飢えていただろう瞳子に、理弌の愛が注がれていくのが良かったです。
血は繋がらないものの叔父と姪の禁断の関係に転がり落ちていくのも早かったですね。
お互いしかなかったからかもしれません。
背徳な雰囲気にドキドキしながら読み進めました。
>憐れには思ったが、それだけだった。
もう気持ちが離れていってしまったのでしょうね。
理弌にとっては限りなく赤の他人になってしまったのでしょう。
仕方がないことだと思いました。
>「ふたりで生きよう」
プロポーズですね!
思わずときめいてしまいました。
寄り添って生きていく二人が思い浮かびました。
今までの辛かった分だけ、どうか末永く幸福に暮らしてほしいものです。
E11 種火
時代ものですね。
一人の男が捕まったところから始まるお話です。
目に浮かぶような細やかな描写に、作品の中にどっぷりと嵌りこんでしまいました!
普段読まないジャンルなのですが、するすると読み進められました。
食事を取るシーンが2回、入るんですがさりげなくそれでいて美味しそうでした。
非日常と日常のバランスが取れていて、スゴイと思いました!
気が滅入るようなシーンの後に、挿入されているのがいいですね!
作品の後半は緊張感がずっと続いていて、ハラハラしました。
どう話が終わるのか、分からずに読んでいてドキドキしました。
京を走り回っているところはクライマックスでした。
最後に事件を種明かしされる手腕が鮮やかでした。
ずっとドキドキハラハラだったので、すとんと落ちつきました。
まさに「種火」ですね。
この一件から京だけではなく、日本を巻きこむ事件が起きると思うと、タイトルに偽りなしです。
E12 プロメテウスの崖
プロメテウスの神話を軸に展開していく未来のお話。
>私は両親の待つ生家へ向かった。
普通に読んでしまいましたが、読み返してみると切ないフレーズです。
水没した生家の描写が美しかったです。
想い出を持ち出そうとして、海がさらっていってしまうシーンが胸に来ました。
見送ることしかできなかった唯の心境は複雑でしょう。
>「終わり」がねじ伏せるようにやってきた。
まだ余裕があると楽観視していただけに「終わり」は残酷な形でやってきますね。
この力づくでやってきた「終わり」の表現が好きです。
唐突な形で両親を失ってしまった。
骨壺は空っぽなのがより悲しみを誘いました。
ようやく泣けた唯の背を撫でてやりたいと思いました。
後半のラストシーンに向けての迫力は素晴らしかったです!
生き生きとした描写がスカッとしました!
EPTを操作する唯の心情が絡んできて、断固たる決意が見えて素敵でした。