並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

Dブロック感想

 自分の実力を棚上げして好き勝手書いています。
 ネタバレに考慮していません。




D01 とある罪人の告白
 優しい口調で語りだされる灯火の間の守人のお話。
 灯火の間を実際に見て見たくなりました。
 そこには様々な営みが揺らめいているのでしょうね。
 蝋燭の設定が良いですね!
 変化の少ない地味なお役目ながらも、日々に喜びと悲しみを感じている朔が良いですね。
 とても罪人には思えないまま話は進んでいきます。
>灯火の間に涙は厳禁なのです。
 序盤に説明される設定が後半で活きてきます。上手いですね。
 朔の決意も無駄だとあざ笑うように連続殺人は止まらないのです。
 間違いであってほしいと願いたいけれども、事実を突きつけられて狼狽する朔の気持ちが胸に突き刺さりました。
 朔は確かに罪人ですが、この後、どう裁かれるのか気になりました。


D02 顔(※注)
 回想シーンのお信ちゃんと又吉が良いですねー。
 どちらも素直になれないから、憎まれ口を叩いてしまう。
 幼なじみらしいやりとりが生き生きしていました。
 それが不思議な女が出てきて運命が変わってしまう。
>その夜、あたしは鏡を見ながら手燭に灯した炎で顔の左側を炙った。
 さらりと書かれていますが、女だったらそれがどれだけ情念がこもった物か分かると思います。
 村で美人と言われた顔を焼くのですから、相当憎かったんでしょうね。
 痛みがどれほどのものだったのでしょうか。
 謎めく女はお信の顔を奪って又吉の心の底まで手に入れようと思ったのでしょうか。


D03 Gore -青き死神-
 二人は夫婦で蜜月中ですか!
 なまめかしい描写にドキリっとしましたが、封印しちゃうんですね。
 勿体ない! いや、夫婦なんだからもっとラブいちゃしても誰も文句を言わないと思います。
>時折彼の回りで何かが蠢いていたが、フェルディはそれを見なかったことにした。
 のんびりとした昼間に、唐突に表れた非日常を無視できるなんてスゴイですね!
 読み進めていくと、菫色の瞳を持って生まれた死神の悲しみが溢れてきました。
 【花摘み】という設定が良いですね!
 セムの覚悟が殉教者のようで、朝露のように清々しかったです。
 ラストシーンは切なかったです。
 二人で最初から決めていたことなのかもしれませんが、救いがあればと思ってしまいます。


D04 アマヤドリズム
 疲れた社会人の私は灰色の世界を揺蕩っているようで可哀そうになりました。
 失敗続きで擦り減っていく心が折れそうではらはらしました。
 それが火花のような少年の登場で、世界は一気に明るくなりました。
 まるで極彩色のように、私も染まっていくのが良いですね。
 偶然、居合わせたセッションに気持ちが上向きになっていくのが丁寧に描かれて良かったです。
 日常の辛さをひととき忘れさせてくれた。
 私はまだ音楽が好きだということを思い出させてくれた。
>雨のスクリーンに五線譜が広がり、鼓膜でろ過した音符が並ぶ。
 この描写が素敵でした!
 雨の中、音楽を楽しむようで、キレイな言葉選びですね。


D05 記憶
 夢の中で、何度も繰り返される死。
 記憶というタイトル通り、奈美にとって忘れることが出来ない記憶。
 場面は変って、田舎の墓参りに行く描写はリアリティがありました。
 誰も顔を覚えていないような親戚の集まりに独りでやってきたのは辛いですね。
 田舎特有の好奇心にさらされて、馴れ馴れしさに辟易していたところにお墓参りの時間に。
 墓参りを怠ったせいでしょうか。
 男性に出会ってしまったからでしょうか。
 それとも初めから定められていたのでしょうか。
 少年の呼びかけに奈美は絡め取られてしまう。
 途中からゾクゾクしていました!


D06 ひだね
 少年を決意させたのは少女の命のためなんですね。
 漢らしくて良いですね!
 絶望感が漂う中、二人は魔女の住む城を目指す。
 その悲壮感がたまらなかったです!
 魔女が優しいですね!
 無理難題を吹っかけてくるのが役目かと思いきや、人のために力を使ってくれるなんて!
 これで平和になると思いきや、人々はお互いにいがみあうようになってしまうなんて。
 魔女が深い眠りについてしまった結果かと思うと人間の愚かさが掘り出されていきますね。
 最後のエピソードが最初に繋がるのでしょうか?
 おとぎ話が効果的に挿入されていて良かったです!


D07 Waiting For The Fire Never Come
 タイミングが悪いというか、ピッタリのタイミングだったのか。
 儀式の最中に狙われたのはスピリットとフェリシアにとって、最悪なケースだったのでしょう。
 強盗団を追いかける二人にはどこか余裕があって不思議に思っていたら、二人は不老長寿の持ち主。
 視点が変わって強盗団になると、よりコミカルな感じがしました。
>ワイルド・パンチ強盗団に明日なんてないからね。
 その日暮らしの強盗団らしい言葉ですね。
 スピリットが力を取り戻さなければ、明日はない。というのと掛けているのしょうか。
 ラストシーンでも呟かれるので、良い伏線だと思いました!
 バトルシーンは緊迫感がって良いですね!
 銃と魔法の異種戦闘シーンはカッコいいです!

 
D08 火童子
 火童子は不思議な生き物ですよね。
 親はなく、木を食べて、後は寝るだけの生活を繰り返している。
 それを見守る森主との関係性が良かったです。
 気負うわけでもなく、そこに存在しているだけで清浄な空気に包みこんでしまうような森主が素敵でした。
 すべてを守ろうとして。そこに嫌味がなくて、当たり前のことをしているというかのように振る舞う。
 森主を慕う火童子が無邪気で可愛かったです。
 二人の穏やかな日常に異変が混ざりこんできます。
 火童子の不安は的中してしまいます。
 不穏な空気は森を、つまるところの森主を喪うことを意味しています。
 火童子が取った選択は、いや彼は選択したことさえ解っていなかったと思います。
 純粋な気持ちで行動しただけなのでしょう。
 ラストシーンで森主が火童子を探すのが切なかったです。


D09 焦げた着物の少女
 悪夢が続いているとは気の毒に。
 前世なんでしょうか。
 藤一郎が見る夢はリアリティがあって現実を蝕んでいきます。
 そんな藤一郎に転機がやってきます。
 吉信との出会いから、運命の歯車が回っていきます。
 見えないものの言葉が聴くことが出来る能力を持っているんでしょうか。
 切羽詰まった藤一郎とは逆に余裕がある吉信は自分のペースに巻き込んでいきます。
 その展開が違和感なくて上手だなぁと思いました。
 吉信にも事情があって藤一郎に近づいたんですね。
 お互いさまというところでしょうか。
 ラストシーンは大学生らしい爽やかな終わり方で読後感は良かったです。


D10 灼かれた者(※注)
>「僕なんかが弟でごめん」
 大海の気持ちが全て込められている言葉ですね。
 もっと他の手段がなかったのかと思いました。
 どうにもやりきれないです。
 その反動か、逸香は復讐に乗り出します。
 冒頭のシーンに繋がるわけですね。
 やり過ぎた復讐に逸香は怯える気持ちは分かる気がします。
 ちょっと怪我をしてくれれば良い。
 殺人者になってしまった逸香は大海の部屋でアルバムを引っ張り出すところは、ドキドキしながら読み進めていきました。
 過去の自分が投げかけた台詞を思い出して逸香は後悔するシーンは胸が張り裂けそうな気分でした。
 “業火”というフレーズが印象的な作品でした。


D11 葬送
 オレオレ詐欺を語る口調で始まったのが面白かったです。
 実の孫相手に、繰り返しているのがコミカルですよね。
 複雑な家庭環境のようで驚きました。
 籍を入れなかった理由は“めんどくさい”で片づけられていますが、内心は複雑ですよね。
 饅頭の羅列にお腹が空きました(笑)
 季節折々の饅頭が並ぶと争奪戦になる光景はほのぼのとしていて良いですね。
 人の生き死にには様々な感情が渦巻きますよね。
 葬式に出なかったのは、僅かに残された矜持だったのでしょうか。
 書類を燃やす老婆の背はぴんとしたものだったような気がしました。
 すべて燃やし尽くしてしまう心の中には激情が潜んでいるような気がしました。


D12 業火
 あたしが語る身の上話は、どこか朗らかな感じがして、陽気な女性なのかなぁ。と思いました。
 芯が強い感じがしました。
 語り口は軽快で、読み進めやすかったです。
 内容は筆舌しがたいほど辛い人生を歩んでいて、あたしが“ねえさん”と呼ぶ度切なくなりました。
 あたしにとっては、どこにでもある、良くある話かもしれません。
 ちょっとばっかり不運だっただけかもしれません。
 懸命に生きようというよりも、運命に流されていくだけの人生に不満を思っていないようです。
 どこにいても生き残ってしまう。独りにされてしまうのは辛いだろうに、と同情してしまいます。
 そんなことを言ったら、あたしに鼻で笑われてしまうでしょうね。
 男はあたしを口説き落とせたのでしょうか?
 ちょっと気になりました。