並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

 冷たい風の中、立ち尽くす人影。
 最近の子どもは塾通いが大変そうだな。
 そう思いながら、その人影の脇をすり抜ける予定だった。
 真ん丸の月を見上げる、子ども。
「おい」
 思わず男は声をかけた。
 肩でパッツンと切られた髪が揺れ、少女は振り返った。
「何してるんだ?」
「月を見上げていました」
 不審者に驚きもせず、少女は棒読みで答える。
 一瞬悩み
「靴は、どうしたんだ?」
 男は尋ねた。
 視線の先には、紙のように白い裸足があった。
「さあ?
 下駄箱になかったから」
 それでここまで歩いてきた。と少女は言った。
「親に電話して、来てもらえばいいだろ?
 ケータイは?」
「持っていません」
「じゃあ、公衆電話とか……。
 小銭ないなら、交番とかでも貸してくれるしな」
「持ってません」
「なら、じゃあやるから」
 男が服のポケットをあさっていると
「両親、この間、交通事故で他界しました」
 少女は淡々と言った。
「……保護者は?
 まだ、18歳になってないだろう?
 法律でちゃんと決まっていて」
「もう、18です」
 少女は言った。
「へ?」
「18です」
 少女は制服のポケットから、学生証を出した。
「……すぐ、そこが俺の家なんだわ。
 玄関まで来る気ないか?
 靴貸してやるよ」
「いいえ。
 このまま、歩いていこうと思います」
「どこまで?
 家、近いのか?」
 そんなはずはない、と男は思っていた。
「遠からず、というところです。
 このまま歩いていれば、両親と同じところにいけるような気がします」
 少女はポツリと言った。
「死ぬのはいつでもできる!
 とりあえず、俺の家に来てからでも遅くない」
 男は、少女の腕をつかんだ。
 熱い!と思った途端、その体がかしいだ。
 胸に倒れこんできた少女を抱きかかえ
「なんか、すごいもんひろちまったなぁ」
 と男は呟いた。

例のごとく、続きません。
意味深に見えて、意味深でもなかったりします。