並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

「おめでとう!」
 明るい色の瞳の少女は、その色そのものの声で言う。
 彼女のイメージは、常に空そのものだな、と僕は思った。
「何が?」
「今日、何の日だか、忘れちゃったの?」
 彼女は呆れる。
「覚えているよ。
 僕の誕生日だ」
 事実を告げる。
 それだけだ。
 今日は、誕生日。
「ちゃんと、覚えていたのね。
 感心、感心。
 だから、おめでとう!」
 彼女はにっこり笑う。
 よく晴れた青空のような笑顔。
「何を祝うのか、僕にはわからないな」
 僕は苦笑した。
「あなたが生まれてきたことを!」
「僕が生まれてきたこと……。
 嬉しい?
 君にとって、幸い?」
「そうよ」
 彼女はうなずく。
「やっぱり、わからないな」
「誕生日には、おめでとうって他人に言われるものなのよ」
「らしね。
 でも、僕にはわからないんだ。
 今日は、誕生日かもしれないけど。
 ごく普通の日だよ?」
「素直にありがとうって言いなさいよ!
 おめでとうって言われたんだから」
「形式的だね」
「言葉にしなきゃわからないことって、いっぱいあるもの!
 わたしは惜しんだりしないわよ」
 空色の瞳は、僕をにらみつける。


「ありがとう」