自分が選んだ未来。 それが辛い。 ゲッカは幾何学模様の格子に近づく。 玻璃のはまった窓の先、丸い月があった。 窓枠に手をつき、遠い故郷を思い出す。 チョウリョウの都の冬は、あたたかい。 隙間風が床から忍び寄るけれど、凍りつくほど冷たくはない。 綿の入った衣を重ねれば、耐えることのできる寒さだ。 月の形は変わらないけれど、その色は違って見えた。 チョウリョウの月は、しみじみとして美しい。 人の命を奪ったりはしない、冬の夜。 綺麗な綺麗な月だった。 不吉さは欠片すらない。 だから、ゲッカは悲しくなる。 闇夜を照らす慈悲深さに、涙が零れそうになる。 カイゲツと、何もかも違うのだ。 「仲達……」 ゲッカはカイゲツの宰相の名を呼んだ。 公私に渡り、何でも面倒を見てくれた青年は、元気だろうか。 雪に閉ざされたあのクニで、今日も死者の数を数えているのだろうか。 一つでも多くの命を救おうと、自分の時間を削っているのだろうか。 「ごめんなさい」 全てを押し付けてしまった。 きっと苦労している。 誰にも文句を言わずに、与えられた役目をこなしている。 自分のためではなく、カイゲツのために。 ゲッカは謝罪の言葉しか、見つけられなかった。 (建平元年:カイゲツ最後の総領カイ・ゲッカ)