並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

【セルフパロディ】卒業【フラクタル】

卒業

フラクタル』から岡崎灯影(おかざき・とうえい)→古賀春晏(こが・しゅんあん)。
 今回は、春晏の同学年であり、親友の関根舞紀(せきね・まき)が初登場。


 灯影や美澪の本職について伏線を張ってしまいましたが、リアルタイムでホワイトデーまでに回収しきれるような余裕はないので、お待たせする形になると思います。
 WEB掲載前から決まっていて、キャラクター設定にはちらりと書いてありますが。
 しかも二人は未来編の登場人物なので、現・執行部役員から三名ほどネタバレになっている設定が書かれています。 


 このシリーズは無国籍FTの登場人物が、「もしも学生だったら?」という“if要素”で構成されているセルフパロです。
 そのため、登場人物の名前が日本人離れしています。
 また本編の関係性や生育環境は、アレンジして持ち込まれています。
 ※本編である無国籍FTは、WEB未発表です。


 フラクタルの総目次ページはこちら。
 フラクタル 【無国籍FT学園パロディ】


 『ヴァレンタインデー』の続編です。
 【セルフパロディ】ヴァレンタインデー【フラクタル】 - 並木空の記憶録


 レミオロメンではありませんが『3月9日』に更新したかったのです。
 3月9日 レミオロメン 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索

 卒業式の後、古賀春晏は呼び出されたのだ。
 しかも人気のない高等部の校舎裏。
 相手は在校生代表で、送辞を見事に読み上げた岡崎灯影だった。
 手元に送辞用の紙は用意してあったものの、一度も目線を落さずに卒業生を見ながらスピーチをしたのだ。
 次期生徒副会長にふさわしく。
 今日ばかりは制服を着崩すことなく、堂々と振る舞っていた。
 図書室と家まで送っていく帰り道までしか知らない春晏にとって引っかかりまくる状態の卒業式ではあった。
 親友であり、同じ大学部に上がる関根舞紀は普通に眺めていたけれども。
 在校生から贈られた一輪のスイートピーを手に持ちながら、呼び出された場所に春晏は向かった。
 わがままな後輩は何を言うするつもりだろうか。
 まさかネクタイが欲しい、とか言い出さないことを祈る。
 が、幼稚園舎からいるのだ。
 しかも生徒会役員なのだ。
 その伝統を知らないとは思えない。
 だいぶ昔からあるジンクスだ。
 詰襟の学生服だったら第二ボタンというところだろう。
 明智学院では学年カラーのネクタイを卒業生が在校生に渡すのだ。
 高等部を卒業してしまえば、ネクタイも不要なものだ。
 自分の分身として締め続けたネクタイを手渡すのだ。
 恋の告白として。
 一般的には男子生徒から女子生徒に手渡すのだろう。
 あるいは同級生同士だったら、交換することもあるらしい。
 しかもネクタイには首を絞める形状から「あなたに首ったけで夢中です」という意味もある。
 指定をしてきただけあって、灯影は先についていた。
 春とは名ばかりの風が吹いていた。
 あいかわらず機嫌よく微笑んでいた。
「卒業おめでとう。シュン先輩。
 渡したいものがあったから呼び出したんだ。
 やっぱりシュン先輩は真面目だね。
 来ない、って選択肢だってあったのに」
 灯影は言った。
「それで何の用なの?」
 春晏は緊張しながら尋ねた。
「卒業祝いと、ホワイトデーの約束を取りつけに。
 まずはこれ」
 灯影は手にしていた白い封筒と一輪の花を差し出した。
 綺麗にラッピングされた花はピンクのガーベラだった。
「ありがとう。
 綺麗な花ね」
 春晏は受け取った。
 卒業生用に配られたスイートピーも悪くないものだったが、センスが段違いだった。
 ラッピングペーパーも、つけられたリボンも、花の鮮度も。
 明らかに高そうだった。
 花屋で並ぶような花ではあったからこそ、違いが見せられたようだった。
「……シュン先輩が気に入ってくれたならいいけど。
 美澪が選んだんだ。
 俺がシュン先輩に渡すなら、これぐらいがいいって。
 腕前だけならいいし、俺よりも花に詳しいからさ」
 灯影は微笑んだまま言った。
 悔しさや不快さが混じっていそうな発言だったが、その口調はいつも通りのわがままで穏やかな物腰だった。
「橘くん、お花屋さんでもしているの?」
 春晏は疑問に思った。
「そう大きなお花屋さん。
 おかげで、縁ができちゃったけど。
 しかも高校に入ったら、同じ生徒会役員に選ばれるとか運がないとしか思えないよ。
 卒業どころか、一生に渡って縁が切れなさそうだし」
 灯影は自然と言った。
 どんな関係なのだろうか、と突っ込みたくなかったが、当人がいない場所で訊いてはならないだろう。
 第一、岡崎灯影という人物も一部しか知らないのだ。
「この封筒は開けてもいいの?
 それとも持ち帰った方がいいの?」
 とりあえず春晏は尋ねた。
 ラブレターの類ではなさそうだ。
 それに呼び出しておいてラブレターを渡すとは思えない。
 わがままな後輩だったら、ストレートに恋の告白をしてくれそうだ。
 ……いつものように、軽いノリで。
「シュン先輩が好きな方で。
 確約してくれるなら、持ち帰ってもいいよ」
 灯影は言った。
 嫌な予感がしたので、春晏は開けることにした。
 封筒の中から出てきたのは遊園地のチケットと白いメッセージカードだった。
 メッセージカードには整った筆跡で『古賀春晏先輩。卒業おめでとう。今までありがとう。岡崎灯影』と書かれていた。
 初めて見る灯影の筆跡だったが、国語の教師が書いたように整った見事な楷書体で書かれていた。
 しかも鉛筆やシャープペンシルやボールペンで書かれたものではなかった。
 深みのある微妙に色がにじんだインクだった。
 一般的なブラックでも、ブルーブラックでもなかった。
 微妙に赤みのあるインクだった。
 万年筆で書いたのだろう。
 この手の筆記用具を持たない春晏であったが、高級そうなのはわかった。
 そして意味がわからない数字が羅列していた。
 暗号を出されても困惑するしかない。
 携帯電話も普及していなかったポケベル世代なら解けるのだろうか。
 それともミステリー好きなら理解ができるのだろうか。
「ホワイトデーに遊園地に制服デートをして欲しいんだ。
 だから、きちんと制服を取っておいてね」
 灯影は言った。
「え?」
 春晏は訊き返してしまった。
「だって、遊園地で制服デートなんて、いかにも高校生っぽくない?
 シュン先輩卒業しちゃうからさ。
 ちょっと早い俺の誕生日だと思って付き合って欲しいんだ。
 女の子にお金を出させる真似はしないよ。
 イチゴポッキーをもらったホワイトデーのお返しだからね」
「思い切り、釣り合いが取れてないんだけど?」
 春晏は言った。
 イチゴポッキー1箱と持っているピンクのガーベラですら、対等でなさそうなのだ。
 その上で、遊園地のチケットまで貰っているのだ。
 幼稚園舎からいる上に、生徒会役員に選ばれた岡崎灯影。
 公立の高校に通うよりも安く、手厚いフォローが待っていると知っていて高等部から入学した古賀春晏。
 それぐらいにはかけ離れた存在だった。
 もし、あの日、春晏がイチゴポッキーが入っている自動販売機に行かなければ、出会うはずもない二人だった。
 そして春晏が内申点を上げるために三年間、図書委員会に在籍して、灯影が無類の本好きではなければ、成立しない関係で居続けたのだ。
「シュン先輩って本当に奥ゆかしいね。
 お金はあるところから出させるものだよ。
 消費行動に移さない限り、経済というものは停滞するのだから」
 灯影はあっさりと言った。
「使うな、とは言ってないわよ。
 無駄遣いをしないように、って言っているのよ」
「俺がシュン先輩にかけるお金は無駄遣いじゃないよ。
 それに親のお金に手を出したわけじゃないし。
 自分で稼いだお金を使って、どこが悪いの?
 労働をして、対価として貰ったお金だったら、使い道は個人の自由でしょ?」
「バイトでもしたの?」
 春晏は尋ねた。
 どうにもイメージとは食い違うが、バイトが禁止されているような学校ではない。
 社会的な教育の一環として、届けさえ出して、違法性のない職場だったら、認められていた。
 むしろ、学校側から斡旋してくることもある。
「本業だよ。
 むしろ高校生やっている方が不自然みたいだね。
 少なくとも、俺のことを岡崎って呼ぶような人は時間の無駄とか言うし」
 灯影は言った。
 春晏にはついていかない世界だった。
 生徒会役員としてかたわらで、会社を立ち上げた先輩がいなかったわけじゃない。
 高等部に入学前からWEB上で作品を書き続けて、すでにプロの小説家だった先輩がいなかったわけじゃない。
 すでにアイドルとして活躍していて、音楽科に在籍した先輩がいなかったわけじゃない。
 だが、しかし。
 高校に通うのが無駄と言われるような人材は生徒会役員いなかったはずだ。
 この時代だ。
 大学ぐらいは卒業しておきなさい、という暗黙のルールがあった。
「俺への最後の記念だと思って、遊園地デートして欲しいんだ。
 これでシュン先輩に付きまとうのを辞めるからさ。
 ただの先輩と後輩だったからね。
 こういう言い方するとシュン先輩って同情心が豊富だから、きっと頷いてくれそうだけど。
 ほら、俺って可哀そうな感じに響くでしょ。
 客観的に見ても、まあ、それなりに可哀そうみたいだけど」
 灯影は微笑んだまま言った。
 桜が散るように。
 儚いまでもの空気で微笑んだままだ。
 春晏は言葉に詰まってしまう。
 貰ったばかりの花を握りしめてしまう。
「ありがとう、シュン先輩。
 俺にたくさん想い出をくれて。
 楽しい一年だったよ。
 だから、これで最後のわがまま。
 ……関根先輩も待っているようだよ」
 灯影は言った。
 春晏が振り向くと舞紀が立っていた。
「関根先輩、古賀先輩をお借りして申し訳ないです。
 お二方、ご卒業おめでとうございます。
 ご活躍とご健康をお祈りしています」
 灯影は微笑んだまま卒なく言った。
 次期生徒会副会長にふさわしく。
「ありがとう、灯影くん。
 じゃあ、シュン行きましょう」
 舞紀が言った。
「う、うん」
 途惑いながら、春晏は親友についていった。
 きっと、岡崎灯影は微笑んだまま、見送っているに違いない。
 そう確信しながら、三年間通った校門を出た。
「どうしての? シュン」
 舞紀が尋ねた。
「ちょっとだけ……。
 ピンクのガーベラって、どんな花言葉があったのかなって」
 春晏は親友を見上げた。
 小柄なせいか、標準的な身長の舞紀と目線を合わせようとすると見上げるはめになる。
「シュンの方が詳しいんじゃない?」
「思い出せなくって」
 困ったように春晏は言った。
「そうね。
 その花、灯影くんに貰ったの?」
 舞紀が携帯電話をいじりだす。
「うん」
 春晏は頷いた。
「あら、情熱的。
 ほら」
 舞紀が見せてくれた検索結果に春晏の瞳は釘付けになる。
 『崇高美』と書かれていたからだ。
 春晏は持っていった花を落しそうになる。
 深い意味はない、と思いたいけれども、会話の流れから言って無理がある。
 揶揄うために、贈った。
 その線を考えても、無理があるだろう。
 どうしていいのか春晏にはわからなかった。

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