並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

■静かなる追憶

 都には毎日、伝令が届く。
 戦勝報告ばかりに、群臣たちは浮き足立つ。
 長かった戦が、華々しい終わりを迎えようとしていた。
 戦場に関わらない者にとって、自軍の損害はただの数字だ。
 人間の命ではない。
 一つ一つに同情を寄せていたら、気が狂ってしまう。
 戦争は大きな消費行動だった。
 命、武具を始めとして、市場が活発化する。
 ほどほどであれば、支出が少なく、大きな利を得られる経済活動だった。
 人民の思想を制御するのもたやすい。
 国内の不満を外敵への脅威に変えるのだ。
 結束力も高まる。
 勝ち戦は、良いこと尽くめだ。
 ホウスウはためいきをつく。
 届いたばかりの書簡を卓の隅に押しやる。
「もうすぐ終わります」
 祈るように指を組み、呟く。
 果たせなかった夢が近づいていた。
 志半ばで倒れた父と兄の描いた夢が、すぐそこまで来ていた。
 犠牲はまだ続く。
 早く、早くと天に祈る。
 一刻でも早く、と戦争の終結を祈る。
 直接、指揮ができないのが悔やまれる。
 戦場が遠すぎる。
 また家族を失ったら、自分は立ち続けていられるのだろうか。
 灰色みが強い茶色の瞳が書簡を見つめた。

(建平三年、色墓の戦い:鳥陵皇帝フェイ・ホウスウ)



 毎日、一題ずつ答えていきたいと思います。
 長さはこれよりも、心持ち短め? かな。