並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

たまには毛色が違ったものを

 誰も待っていなさそうな話です(笑)
 こういう論文調のものも楽しそうだなぁ。
 とか、思って。
 「鳥たちの見た夢」から、敵役のライカイで。
 リクエストがあれば、ネタバレにならない程度で受け付けますよv
 「星々の揺籃」と「神の印」でも、何とかできそうかなぁ?

 史書は曰く。
 ギョク・ライカイは、ギョクカンの王とも思えぬほど野蛮で、皇帝を詐称した愚かな人物であった。と。
 ライカイは敗者であり、歴史という舞台を途中で降りた役者である。
 彼の半生は、正妃の遺したただ一人の子どもであり、嫡男であったギョク・レイテイの手記からうかがうことができる。
 あとは、彼が皇帝の名で出した法令ばかりが残る。
 史書に編纂に当たった者たちの中に、ライカイに憐憫の情を持つ者がいなくはなかったが、それはほんの一握りのこと。
 ライカイ個人について好意的な文面を探すのは、難しい。
 チョウリョウ王朝の史書も、すでに御伽噺になりつつある。
 大陸史上、もっとも人民が豊かであった、その王朝。
 それに飲み込まれたギョクカンという地域の王。
 くりかえしになるが、ライカイは比較的恵まれている。
 列伝も立てられ、その編纂の冒頭を担当した執筆者が非常に好意的であったためだ。
 彼の名が史書に残された、その始めはこうである。

 ギョク・ライカイは、ギョクカン(後の双調)の人。  黄武五年に、豪族ギョク家の長男として生まれる。  黄武二十一年、ライカイ十七の歳に父を亡くす。  ギョク家の総領となり、エイネン王朝に伺候する。  鎮安将軍の官位を賜る。  この秋、ライカイは皇女を賜る。  御名を幽姫という。  御歳十五歳の皇女であった。  ライカイは至宝として、皇女に名を贈る。  稀なる珠と書き、稀珠姫とする。  後に、昭珠皇后と追贈する。
 当時のエイネン王朝は、腐敗の極みであった。  皇帝の親政もなく、欲にまみれた官僚たちの限りの知ることない民への摂取で、その財政は成り立っていた。  傀儡の皇帝たちの趣味は、子作りだといって過言ではない。  昼間から後宮へ通い、飲めや歌えの大騒ぎが繰り広げられていた。  ある年など、三人の皇女と二人の皇子が誕生したこともあった。  毎年のように増える皇族であったが、何故か男児が育ちにくかった。  正妃腹の二皇子を残し、成人することはなかった。  後宮で生い育った皇女は五十人を数える。  もちろん全ての皇女たちが、手厚く育てられるわけではない。  生母の官位が低ければ、公主と認められることはない。  幽姫も、名太傅と名を残すシャン・シュウエイの母も、そのような哀れな皇女の一人であった。  姫と呼ばれるのがせいぜいの皇女たちの末路は、暗い。  宮中でひっそりと暮らせれば、重畳。  多くは謎の死を遂げ、残りは衰弱死する。  劣悪な環境から、市井に出て物乞いになる者までいたという。  幽姫とライカイの出会いは、どういったものか。  史書には残されていない。  二人の間に、どんな言葉が交わされたかも、残っていない。  子であるレイテイが三つを数える前に、幽姫は儚くなってしまったためである。  歴史が語るのは、ライカイが生涯にかけて、妻と呼んだのは一人きりであったということ。  正妻、正妃、皇后。  その位は全て幽姫のものであった。  その事実だけが歴史に刻まれている。

 こんなのも良いと思います。