並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

日常を描く。

 チリン

 北風で千切れるような耳に響いた。
 いつもの散歩コースで拾った音に私は辺りを見渡す。日光浴もかねた散歩コースは、密やかな活気と気持ちの良いさざめきで満たされていた。
 駅前通りをつなぐ小道だが、一方通行の標識と灰色のアスファルトに伸びる緑のスクールゾーンの模様のおかげで、近くのスーパーと郵便局、それと寺を参る人、あとは近くの住人たちが歩くだけだ。ときおり、通りすぎる自転車も、ここではのんきなものだ。
 急ぐ者などいない、散歩コースにふさわしい小道で、私のお気に入りの通りの一つだった。

 チリリ ン チリーン

 風に吹かれてガラスの音がする。
 冬至が近い太陽がわずかに照らす昼の時間に、そぐわない冷たい音だった。肌をなでていく風に合わせて、それが鳴る。
 すぐ横の家の軒先に、それがいた。
 ガラスの風鈴が仲むつまじく3つ。陽光を浴びながらたたずんでいた。どうやら、あちらも日光浴のようだ。
 しまい忘れた風鈴だろうか。それとも、一年中出しっぱなしの風鈴だろうか。十年前ほどに流行したおしゃれな概観の家の先にあるところを見ると、後者のような気がした。
 学校の授業だろうか、それとも何かのクラブ活動だろうか。良い音色だから、どこかへ行った折の土産物かもしれない。
 ガラスの中を泳ぐ金魚は、実に悠々としたもので、この通りの住人の顔をしていた。

 チリリーン

 冬に聴く風鈴の音は、冷え冷えとした「氷」の音がする。夏であれば涼と感じ、秋に聞けばしみじみとした情緒を思い起こすというのに、冬の音はこんなにも「氷」の音なのだろうか。私は金魚から空に目を向け、散歩を続ける。
 ガラスの音。金属のような高い、繊細な音色だ。何もそれから連想するのは「氷」でなくても良いではないか。
 一つ思い当たる。
 それは冷たいガラスのコップに入ったお茶の中で、泳ぐ氷。夏、最も嬉しい”もてなし”の形だ。
 あの音を同じ音を風鈴も出すのだ。
 なるほど、とうなずいて、私は次のことを考え始めるのだった。
 そのころには小さな通りから、駅前に足を踏み入れていた。



 エッセー風に書いてみたけれど、焦点が絞りきれていない感じです。
 mixiからの転載です。