並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

鳥たちの見た夢

 話は、第四部後半ぐらいの時間軸です。
 (それより先でも良かったんですが、ネタばれになってしまうんで)
 なので、季節は冬〜春にかけてです。
 ソウヨウとシュウエイが話し込んでいます。


 覆面作家が既存のシリーズで良かったら、間違いなく「鳥夢」を書いていましたね(笑)
 「花」をテーマで、鳥夢小話です。

「今、考え事をしているんです」
 うっとりと青年は言った。
「仕事してください」
 配下であるところのシャン・シュウエイは言った。
「できそうにありません」
 万年春にいるような口ぶりでソウヨウは言う。
「……いい加減にしてください!
 絲将軍!!」
「一気に自分の立場を思い出しました」
 ソウヨウはためいきをつく。
 思い出したくなかった、と青年はつけたす。
 そうしたところで目の前の配下には、何の効果もないことはわかっている。
 秀麗な顔立ちに、洗練された立ち居振る舞いができる翔朗(シャン家の坊ちゃん)は、同情というものを持ち合わせていなかった。
 割り切りの良すぎる性格は、自分の旗下に置いておくのには危険すぎる。
 彼はなんのためらいもなくソウヨウを裏切ることができるだろう。
 そして、裏切ったことを後悔もしないだろう。
 揺るがない価値観を弱冠にて確立しているあたり、さすがは翔家。
 でも、彼はまだソウヨウを裏切らない。
 ソウヨウはチョウリョウのために働いているし、忠誠を誓っている。
「姫を花薔薇以外にたとえるなら、どんな花がいいのか。
 それを考えていたんです。
 面白そうだと思いませんか?」
 ソウヨウはにこやかに言った。
「花薔薇ではいけないんですか?」
「姫は花薔薇のようだから、それ以外にたとえてみたいんです。
 それ以外の花なら、何が似合うと思いますか?」
 南城の花瓶の管理をしている青年に、ソウヨウは問う。
「白い芍薬が似合いそうですね」
「白限定ですか?」
「赤瑪瑙に映える色は白ですよ」
 シュウエイは断言した。
「確かに、お似合いかもしれませんね」
 ソウヨウは恋人が芍薬を持つ姿を想像してみる。
 真っ白な花弁が幾枚も広がり、ほろほろと咲く芍薬
 乙女の長い髪に映えるに違いない。
 牡丹よりもすっきりとしているところが、あの小柄な姫によく似合う。
 趣味が良いと納得するものの、少し面白くなかった。
「では、メイワ殿には何が似合うんでしょうね」
 ソウヨウは無邪気に意趣返しをした。
 恋に関してだけ晩生な若者は、逡巡を見せる。
 弱冠の将軍は、心の中でにやにやと笑う。
「碧桃です」
 シュウエイは決まり悪そうに答えた。
「私の記憶に間違いがなければ、シュウエイの一番好きな花でしたよね」
 ソウヨウは追い討ちをかける。
 口うるさい配下は、何も言わなくなった。
 青年はゆっくりと恋人に似合う花を考えるのだった。
 白い芍薬以外の花を。

 恒例の「続きません」です。
 二人の掛け合いが好きです。
 シュウエイとカクエキで、これやったら別の感じになるんだろうな。
 と思いながら、〆です。