「優しくしないで」
怒ったように彼女は言う。
彼女は、変わっている。
『変人』という類の人間だ。
普通の人間だったら、泣いて喜ぶようなことでも、突っぱねる。
いまだに理解ができないが『恋人』だ。
どこをどうして、恋人同士になったかと言うと。
ノリと勢いだろう。
彼女は見るからに考えなしだ。
その外見を裏切らないように、中身も考えるということが苦手だ。
「優しくされるの嫌いなの」
「じゃあ、僕はどうすれば良いんだい?」
非建設的な意見に、尋ねる。
「うわべだけの優しさって嫌いなのよ。
あなたの場合、条件反射的に他人に優しくするでしょ?」
彼女は言った。
「偽ったつもりなんて、これっぽっちもないよ。
神に誓ってもいい」
「だから、気をつけてね。
あなたの偽善的で、無意識な優しさは嫌いなの。
本音がわからなくなっちゃうでしょ」
もっともらしく、彼女は言う。
怖いくらい真剣だ。
こういうときの彼女には逆らわない方が良い。
経験上、嫌というほど知っている。
「努力はする」
やるとは言わない。
無意識なやさしさを、意識的に止めるなんて器用な芸当は自分にはできないだろうから。
「がんばってね」
彼女は笑顔で言う。
その笑顔に弱い自分は、ついついうなずいてしまうのだった。
例によって、続かないです。