並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

「優しくしないで」
 怒ったように彼女は言う。
 彼女は、変わっている。
 『変人』という類の人間だ。
 普通の人間だったら、泣いて喜ぶようなことでも、突っぱねる。
 いまだに理解ができないが『恋人』だ。
 どこをどうして、恋人同士になったかと言うと。
 ノリと勢いだろう。
 彼女は見るからに考えなしだ。
 その外見を裏切らないように、中身も考えるということが苦手だ。
「優しくされるの嫌いなの」
「じゃあ、僕はどうすれば良いんだい?」
 非建設的な意見に、尋ねる。
「うわべだけの優しさって嫌いなのよ。
 あなたの場合、条件反射的に他人に優しくするでしょ?」
 彼女は言った。
「偽ったつもりなんて、これっぽっちもないよ。
 神に誓ってもいい」
「だから、気をつけてね。
 あなたの偽善的で、無意識な優しさは嫌いなの。
 本音がわからなくなっちゃうでしょ」
 もっともらしく、彼女は言う。
 怖いくらい真剣だ。
 こういうときの彼女には逆らわない方が良い。
 経験上、嫌というほど知っている。
「努力はする」
 やるとは言わない。
 無意識なやさしさを、意識的に止めるなんて器用な芸当は自分にはできないだろうから。
「がんばってね」
 彼女は笑顔で言う。
 その笑顔に弱い自分は、ついついうなずいてしまうのだった。

 例によって、続かないです。