並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

 今日すべきこと -世界初!ライフハック検索エンジン-さんが

【おじいさんは山へ芝刈りに。お婆さんは大胆に、それでいて女っぽく行きました】という書き出しの昔話を作る。[重要度:28%]

 というので、途中まで書いてみました。
 原稿用紙6.8枚もあるので、許してください!
 序盤でこんだけーってことは全部書いたら、半端ない量になります。



 おじいさんは山へ芝刈りに。お婆さんは大胆に、それでいて女っぽく行きました。
 もちろん川に洗濯です。
 村の洗濯場にはたくさんを洗濯物を抱えた女たちがやってきます。
 それは本当にたくさんで、細い女たちの腕で、どうにか抱えられるほどのものです。
 下は四つ五つの可愛らしい盛りの童女から、上は腰の曲がった老婆まで、女たちは一様に洗濯場にやってくるのです。
 何故なら、洗濯場というものは社交の場であり、流れる水というのは神聖なものだからです。
 男子禁制の社交場であるなら、当然の帰結として、女たちは己がいかに女であるかを競い合うことになります。
 ある娘は髪に、見事な花を飾ります。
 ある娘は白い首に、美しい石を連ねた首飾りをつけています。
 ある娘は鮮やかに染めた衣に身を包みます。
 つまり、女たちは美を競い合うのです。
 お婆さんは年老いたとはいえ、いやだからこそ、歳を重ねなければ得ることのできない艶を持っておりました。
 視線を動かし方、指先まで行き渡った仕草。すっと立ったときの大げさではない凛とした美しさ、座ったときのハッとするようななよやかさ。
 そこには上品な美しさがありました。
 幼い子どもたちは、子ども心に素敵だと思いました。
 成人前の少女たちは、憧れの眼差しでお婆さんを見上げました。
 盛りの乙女たちは、お婆さんの素晴らしさを真似できないものか、と考えこんでおりました。
 結婚して落ち着いた女たちは、嫉妬混じりの視線を投げつけました。
 子育てが終わり、お婆さんと同じ年頃の女たちは呆れたような、羨むような眼差しで苦笑しました。
 お婆さんは装いを凝らし、仕草ひとつに気を使いながらも、洗濯を続けます。
 それは、この村に嫁いできてから変わらない日課の一つでした。
 女たちが取り留めのない話に花を咲かしていると、川上から変わった形の舟が流れてきました。

 どんぶらこ どんぶらこ

 舟は流れてきました。
 結婚し、髪を結い上げているような女は眉をひそめました。
 川は神聖な場所。
 汚れも罪も清められ、流れていくものです。
 そこに現れた舟は間違いなく、大いなる穢れ。
 死に等しく、生にかろうじて舟床でつなぎとめられているものです。

 ああ、この舟の中にいるものは、死んでいくのだ。

 乙女たちは悲しい顔をして、舟が通り過ぎるのを待ちました。
 穢れとは恐ろしく、結婚をしていなければ尚更、怖いものなのです。

 どんぶらこ どんぶらこ

 変わった形の舟は川下に流れていきます。
 お婆さんも神に祈りを捧げながら、舟が通り過ぎるのを待ちました。
 けれども、ふいに、お婆さんの耳に聞えてきた声があったのです。
 お婆さんは洗濯物を投げ捨て、川に飛びこみました。
 水位は腰に届かないほどとはいえ、年老いた身には冷たさが身に沁みます。
 それでもお婆さんは舟まで歩いていき、その舟を捕まえました。
 村の女たちは固唾を呑んで成り行きを見守っております。
 お婆さんは舟の縁をつかむと川岸まで運ぼうとします。
 けれども舟は軽いものではありません。
 童女や少女。つまり、まだ大人にはなっていない女たちは、各々の洗濯物を置き、お婆さんに協力しました。
 みんな汗だくになりながら舟を岸に上げたのです。
 それは死にいく運命に逆らって、生へと繋ぎとめたということです。
 舟の中には、それは息も絶え絶えとした赤ん坊が、大きな木の葉に包まれて眠っておりました。
 正確には赤ん坊は泣けるほどの体力を持っておらず、ただ横たわることだけしかできない状態だったのです。
 お婆さんは赤ん坊を舟から取り上げました。
 運命共同体である女たちは顔を見合わせました。
 すぐさま乳飲み子を持つ女が、その赤ん坊を受け取りました。
 薬に詳しい女は山に向かっていきました。
 最も豊かな家の女が暖かい小屋を用意しました。
 女たちはそれぞれにできることを赤ん坊に対して、惜しみなく与えたのです。
 その甲斐があったのか、赤ん坊は健康を取り戻しました。
 初めに拾い上げたのがお婆さんだったことから、赤ん坊はお婆さんの子どもとして育てられることになりました。
 子どもに恵まれなかったお婆さんは大喜びをしました。
 もちろんお爺さんも喜び、今まで以上に仕事に熱心になりました。
 お婆さんにとっても、お爺さんにとっても、初めての子であり、男の子であったので『太郎』と名づけられました。
 村の子どもたちの中にも、太郎という名の子がいたので、川から流れてきて女たちに救われたということから『桃』という字を添えられました。
 桃は邪気を払い、神の加護があると信じられている神聖な植物だからです。
 また不老長寿の妙薬とも言われ、生きたまま死のうとしていた赤ん坊が生を全うできるように、という願いも込められています。
 村の人たちに愛され、桃太郎はすくすく育ち、それは美しくも立派な若者となりました。