並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

1月5日

「理不尽だ」

 呟きは、氷となった。
 真っ白な吐息が夜の深さに、すーっと溶けた。
 昔、どこかの歌詞でこんな展開があったような気がする。

 1月5日(金)。

 新春である。
 しかも底冷えの関東平野は、寒さをグレードアップしてくれたようだった。
 理不尽なのは、誰だ……と吐き出した息を目で追いかける。
 自分の半歩前を行く小柄な影は、一生懸命に空を見上げている。
 雲ひとつない夜空だ。
 満月は中天。
 綿のシャツにジーンズ姿の人影は、かすかにふるえていた。
 マフラーでも、コートでも持って出れば……と思うのは、お節介なんだろう。
 彼女には彼女の厳正なルールがあるのだ。
 それを無視して、自分のルールを押しつけるのはベターではない。
 だから、ためいきが出た。
 コッチを見ていないことを良いことに……。
 まあ、大人ってものはいつでも、そんなもんだ。
 切り売りしていって、残ったのは……今の自分だ。
 小さな頭が諦めたように、うつむいた。

「まだ、星を探すか?」
「……いや、いい。
 極大はとうに過ぎている」

 彼女は、淡々と事実を述べる。

「満月だ。
 仕方がないだろう。
 明け方には、もうちょっと見れるんじゃねーの?」
「次は夏だな」
「双眼鏡、買ってやろうか?」
「そこまで星を見たいわけではない」

 一回だけ、彼女は空を見上げた。
 流星群を観測するのに、悪条件だということは、去年からわかっていたことだ。
 明るすぎる満月の光が邪魔をする。
 しぶんぎ座流星群は、それほど多くの星を観れるわけではない。

「部屋に戻ろう。
 ――さんも心配する」
「家を出る前に、部屋をのぞいたら、寝てたぞ」
「プライバシーの侵害か?」
「鍵をかけるか、迷ったんだよ」
「……声をかけたのか?」
「当然だろう」
「まあ、それなら仕方がないな」
「そういうこと」

 鍵を探りながら、空を見上げる。
 日付が変わったばかりの、雲ひとつない星空が広がっていた。

 珍しく、某氏視点で。
 去年の携帯版*1から続いているような感じです。

*1:日記に投稿して、まだログをアップしていないもの