「あんまり頼みたくはないんだがな」 カクエキは困ったように笑う。 首筋をかき、それから配下を見た。 成人したばかりの少年たちは、カクエキとは正反対に、背をピンと伸ばしていた。 よく訓練された兵士らしく、真剣な面持ちのまま、上官の話を聞く。 それが、カクエキに苦笑を浮かべさせる。 自分がこれぐらいの歳には、命をやり取りする場所にいた。 最前線に立つのに若すぎるわけではない。 ただ、この二人に与える役目は大きすぎるような気がした。 策は成功するだろう。 計略の奇才が編み出した策略が失敗することはない。 緑の瞳の青年が人的被害をどこまで勘定したのか。 それがわからない。 「紆迅雷」 カクエキは、字を呼んだ。 真緑色の双眸が喜色で輝く。 「絲将軍より軍団長に任命された。 1両(25人)を率いて、玉金麗の首級を上げよ」 カクエキは、詳細の書かれた命令書と任命書をシデンに渡す。 表情豊かな少年は、満面の笑みを浮かべる。 常識では考えられない作戦も、やりがいのある任務に見えるのだろう。 戦いに身を置き続けるシキボの民らしい、少年だった。 カクエキは向き直る。 「耀秋霜」 「是(はい)」 青い双眸の少年は短く返事をする。 「副官はお前だ。 伯俊から何か言われるだろう。 ありがたく聴いておけよ」 カクエキは肩をすくめた。 「是」 ケンソウは拱手する。 「初陣というわけだ。 死ぬなよ」 カクエキは二人の少年に声をかける。 「はい!」 「是」 迷いのない返事が返ってくる。 それに少しばかり、カクエキは慰められた。 (建平三年、色墓の戦い:絲将軍旗下、ヤン・カクエキ、歩兵部隊ユ・シデン、ヤオ・ケンソウ)