並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

■課せられた使命

「あんまり頼みたくはないんだがな」
 カクエキは困ったように笑う。
 首筋をかき、それから配下を見た。
 成人したばかりの少年たちは、カクエキとは正反対に、背をピンと伸ばしていた。
 よく訓練された兵士らしく、真剣な面持ちのまま、上官の話を聞く。
 それが、カクエキに苦笑を浮かべさせる。
 自分がこれぐらいの歳には、命をやり取りする場所にいた。
 最前線に立つのに若すぎるわけではない。
 ただ、この二人に与える役目は大きすぎるような気がした。
 策は成功するだろう。
 計略の奇才が編み出した策略が失敗することはない。
 緑の瞳の青年が人的被害をどこまで勘定したのか。
 それがわからない。
「紆迅雷」
 カクエキは、字を呼んだ。
 真緑色の双眸が喜色で輝く。
「絲将軍より軍団長に任命された。
 1両(25人)を率いて、玉金麗の首級を上げよ」
 カクエキは、詳細の書かれた命令書と任命書をシデンに渡す。
 表情豊かな少年は、満面の笑みを浮かべる。
 常識では考えられない作戦も、やりがいのある任務に見えるのだろう。
 戦いに身を置き続けるシキボの民らしい、少年だった。
 カクエキは向き直る。
「耀秋霜」
「是(はい)」
 青い双眸の少年は短く返事をする。
「副官はお前だ。
 伯俊から何か言われるだろう。
 ありがたく聴いておけよ」
 カクエキは肩をすくめた。
「是」
 ケンソウは拱手する。
「初陣というわけだ。
 死ぬなよ」
 カクエキは二人の少年に声をかける。
「はい!」
「是」
 迷いのない返事が返ってくる。
 それに少しばかり、カクエキは慰められた。

(建平三年、色墓の戦い:絲将軍旗下、ヤン・カクエキ、歩兵部隊ユ・シデン、ヤオ・ケンソウ)