並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

夕暮れの魔法

 夕暮れの中、不釣合いな二つの影が歩く。
 とぼとぼと。
 どこか寂しい足音を、互い違いな言葉が埋める。
 今日の出来事を振り返っては、微笑み交わす。
 過去ばかりが話題に上るのは「今」が楽しくないからだ。
 帰りがたいと思うのは、お互い様だ。
 自然と歩みは鈍くなる。
 理由をつけては遠回りする。
 夕焼けの中、不釣合いな二人はどちらも頑固だから寂しさを口にしない。
 気がついていないはずはないのに。
 恋人同士と呼べるような関係ではないから、夕方は家に帰る時間。
 送り道。帰り道。寄り道。
 それでも星が輝く時間になれば、足は家に向かう。
 取り決めたわけではなく。
 破ったところで、誰も怒らない。
 それを知っていながら、二人は自分の影を見つめながら、歩くのだ。
 今日は楽しかった、と話しながら。
 どうしようもない別れ道。
 二人の帰る場所は違う。
 いつか、同じ場所へ帰る日が来ればいいのに。
 別れの言葉を口にしなくてすむ。

    1. +
「また、明日」  手を振る。  小さくなっていく背中を。  離れていく影を。  何度、見送るのだろう。  夕暮れ小焼け。  真っ赤な太陽が空に溶けていって、夜が来る。  影を探すのは困難だ。  憂う時間は終わり、悲しむ時間の始まりだ。  夕暮れの幻はもう見えない。

 並木空の中で、一番美味しい片思いの様式美です。