並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

彼女の笑顔

「ねぇ、お願いがあるの」
 ほらきた。
 また、おねだりだ。
「あなたにしか頼めないのよ」
 可愛らしく彼女は言う。
 自分のことを可愛いと自覚している『女性』ほど厄介な存在はない。
 と、僕は思う。
「ダメかしら?」
 無力で、幼くて、か弱い。
 そんな振りして彼女は言うのだ。
 僕よりも二つも年上なんだから、そんなはずないのに。
「どうして、僕なの?」
「私のお願いを叶えてくれるのは、あなただけだもの。
 頼りにしてるのよ」
 彼女は大真面目な顔で言う。
 そんな表情で言われると、もっともらしくて、騙されてしまう。
 でも、彼女の周りには頼りのなる大人がたくさんいるのだ。
 まだ子どもでしかない僕を頼るはずなんて、ない。
 都合よく使われているだけだ。
 わかっている……んだけど。
「今度は、どんなお願いなの?」
 僕は言ってしまう。
 途端に、彼女は笑顔。
 春が来ていっせいに花が咲いたときのように、パッと喜びを浮かべる。
 笑う彼女は、やっぱり可愛い。
「ありがとう!」
 嬉しそうなその笑顔のためなら、これからの苦労も報われるかな。って思ってしまう。
 引き受けて、後悔することの方が多いのに。

 恒例ですが、続きません〜。