並木空の記憶録

「紅の空」の管理人2の備忘録

「寒いね」
「と返ってくる、生暖かさ」
 と茶化すと、千秋はむっとする。
「寒いね、と返したほうが良かったか」
 オレの呟きは、白い息になる。
 木枯らし吹く季節、猫背の背をもっと丸めてとぼとぼと歩く。
 隣に幼なじみ兼同級生がいなかったら、みじめったらしいことになっていただろう。
 取り留めないことを考えていると
「そっちが正解!だよ」
 千秋はむっとしたまま言う。
 襟足でテキトーにくくられた髪が揺れる。
 脱色したような茶色の髪が、夕焼けでキラキラと輝いていた。
「なあに?」
「ん?」
「こっち見てたから、何か言いたいことでもあるのかと思って」
 鼻の頭まで赤くなっていて、ちいさい千秋は寒そうだった。
 まあ、オレから見れば大概の女子は「ちいさい」のだが、千秋はかなりちいさい方だ。
「いや、また茶色いなと思って。髪」
「……気にしてるんだから、言わないでよ」
 千秋はためいき混じりに言った。
「だから、言わないように気ぃつけてたんだけどな」
 言わせたのは、誰だ。なんてことはオレは言わない。
 ちいさい千秋が怒ると長いことを知っているからだ。
 落ち着いた赤茶の瓦が見えて、オレは立ち止まる。
「じゃあな」
 こじんまりとした家が千秋の家だ。
「ん、今日はアリガト」
「今日もだろ?」
「しょうがないじゃん。
 最近、この辺も物騒なんだから。
 近所に女の子の家があるなら、そっちに頼むんだから!」
「へいへい。
 オレが悪ぅございました。
 じゃあな」
 オレは片手を上げて、右に折れる道へと進む。
「宏平も気をつけてね」
 心配そうな声が投げつけられる。
「すぐそこだし、オレは男だからな」
 振り返って俺が笑うと、千秋は小さく手を振った。
「知ってるけど。念のため!」
 小憎らしいことを千秋は言った。
 オレはちいさい千秋を見納めて、自分の家へと急いだ。

 例のごとく続きません(笑)